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7.Aクラスでの自己紹介

 入学式も恙無く終わり、それぞれ事前に言い渡されているらしいクラスへ移動を始めるために立ち上がる生徒たち。


 わたくしとレオンハルトさまはそんな彼らよりも先んじて大講堂を出て、渡り廊下を進み一年Aクラスへと足を踏み入れました。ここへ向かう道中も色々なお話が出来て楽しゅうございましたわ。


「席決めはないから、好きなところに座って良い。……フェリシア姫が嫌でなければ、隣同士で腰を下ろすのはどうだろうか?」

「ええ、喜んで。レオンハルトさま、その姫という呼び方ではなく、どうぞもっと気楽にお呼びくださいまし。学友なのですから、ね?」

「……っ、ああ、分かった。では、フェリと。フェリも俺のことをレーヴェと呼んでくれ。その方が気楽、だろう?」


 あら、愛称呼びとは距離の詰め方がお早いですわ。しかしその程度で動揺など致しませんことよ、きっとレオンハルトさま——レーヴェさまは人懐っこくあらせられるのでしょうね。


「はい、レーヴェさま。お席はどこが良いのでしょう、お勧めはありますか?」

「そうだな、一番後ろの中央はどうだろうか。一番太陽光が当たり難い場所だから、フェリも落ち着きやすいと思う」

「まあ、そこまで考えて頂けるなんて、嬉しゅうございますわ。ではお勧めの通りに致しましょう、他の方々がいらっしゃる前に場所を確保しておくのがよろしいかしら」

「そうしよう。おいで、フェリ」


 そういえば大講堂からここまでエスコートをしてくださいましたけれど、クラス室内でもしてくださいますのね。ではお言葉に甘えて、レーヴェさまお勧めのお席へと参りましょう。


 ふむ、確かに最も日光から遠く、わたくしには良い席でございます。クラス室内は最前列から最後列まで段上になっておりまして、ボードが見易いのもよろしい。


 レーヴェさまの右側に腰を下ろして、自国で読んでいた本のお話をしておりましたら、にわかに遠方から声がして来ました。まだレーヴェさまはお気づきになられていませんけれど、わたくしの耳には届いおりましてよ。


 先に腰を下ろしているのは印象が悪いかしら、と思いましたけれど、第三王女であるわたくしが起立して迎えるのは身分が上の者でなくばなりません。レーヴェさまも腰を下ろしたままでございますから、このままで良いでしょう。


 開かれたままのクラス室へ続く扉を潜ってまず担任教師と思われる方が、続いてクラスメイトの皆様が入室されます。既にわたくしたちがいることに担任教師の方は驚きもしておりませんでしたが、他の方々は異なるご様子。


「ん、レオンハルト皇太子殿下とフェリシア王女殿下は先に席に着いているようだな。それでは皆も各々好きなところへ座れ」


 我がブラッドナイト王国、そしてネモ帝国では、王族と皇族に姓はありません。王家、皇家直轄領の運営に携わるのも、成人を迎えた者のみ。ですので、わたくしとレーヴェさまの呼び方は名前に敬称となるのでございます。


 好きなように、と言われた生徒たちは、しかしぎこちなく席を埋めて行きます。あら、わたくしたちの周りは上級貴族の子息子女が固まっておりますわね。そして遠くなるほど下級貴族に、と。


 成程、確かに皇太子殿下と王女の周りに下級貴族がおいそれと近寄ることも出来ないのでしょう。ブラッドナイト王国ではその辺かなり緩いものでしたけれど。


 何せ絶対数が少ないですからね、上級貴族や下級貴族という区分けもあってないようなものでございました。ただ、王家だけは別格ですけれども。そこは越えてはならぬ一戦でございます。


「全員席に着いたな。それでは、まずは自己紹介からやって行く。まず、私はこのAクラスを担当するコンラート・グライリヒだ。担当教科は数学。それじゃあ私から見て手前右側、窓際から行こう。名前、得意な科目、趣味でも言ってくれ」


 焦げ茶色の髪に黄色い瞳のグライリヒ先生が、眼鏡越しに一人目の生徒を指名なさいます。それに応え、次の生徒——あら、横に向かって行くのですさございますね。ふむ、そうなるとわたくしはレーヴェさまの次となりましょう。


 どんどんと進んで行く中で、わたくしの前の席に着席されていた方が立ち上がり、ぐるりと辺りを見渡されます。


「ワタクシはグルムバッハ侯爵家のアンネマリーと申します。得意科目は歴史、趣味は刺繍にございます。皆様、どうぞよしなに」


 最後にわたくしを睨みつけるその方、グルムバッハさま。あら、彼女へ何かをした覚えなどないのですけれど。何かの勘違いか、人違いでもなさっているのかしら。それともわたくしの気の所為ということもありますわね。


 それからも先へ続いて参りまして、レーヴェさまの番と相成りました。わたくしに微笑んでから立ち上がるお姿、すっきりと伸びた背が高貴さを表しております。


「皇太子のレオンハルト。得意科目は魔術解析。趣味は——読書と音楽鑑賞。以上だ」


 あ、あら? レーヴェさま、随分と短くいらっしゃいますのね。わたくしにご挨拶くださった時はもっと沢山情報を頂けたような……? ああ、自国の皇太子殿下のことですから、皆様もうご存知ですわよね。高等部ともなれば、初等部、中等部とも顔触れはあまり変わらないでしょうし。


 そうであれば、あの短さも納得でございます。さて、次はわたくしの番ですわ。立ち上がりからも優雅に、でしてよ。


「皆様、お初にお目もじ致します。ブラッドナイト王国から留学生として参りました、第三王女フェリシアと申します。得意科目は魔術解析並びに言語学。趣味は読書。ネモ帝国の本には明るくありませんから、これはといったお勧めがございましたら、どうぞお教えくださいまし」


 ふふ、完璧ですわね。音も立てずに着席、成し遂げましたわ。これで第一印象も悪くはないでしょう。ああ、わたくしの次に続く方の自己紹介にも耳を傾けねばなりませんわね。


 ふむ、公爵家のご令嬢でこざいますか、穏やかそうで安堵致しました。何せ後から知ったのですが、最初に座った席は中々変えることが出来ないのだそう。


 そうですわよね、皇族が座った席を奪うなどという蛮行は難しいでしょう、そうなると先んじてこの最後列中央の席を取らせてくださったレーヴェさまには感謝せねばなりません。


 自己紹介も無事に終えましたから、ええと次は学院高等部についてのガイダンスでございます。

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