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6.入学式と留学生挨拶

 レオンハルトさまとのお茶会を終えた翌日、本日は帝立フリューネモ学院高等部への入学式がございます。


 真新しい制服に身を包み、髪の毛はサイドからの三つ編みにしてハーフアップ、お団子を背面で作り髪飾りは最小限に。


 眉毛は整えるだけ、瞼には桃色のアイシャドウとラメを品良く乗せます。アイラインはすっきりと、涙袋も少しラメを足す程度でよろしい。睫毛は軽く上げてお終い。


 最後に唇を薄い桃色に染め、グロスを薄らと塗れば完成です。チークはわたくしには似合いませんので、塗りませんわ。ああ、ベースメイクは日焼け止めだけでございましてよ。


「本日も美しゅうございます、我らがお姫さま」

「ふふ、皆の手腕あってこそ。明日からも同じメイクをしますから、頼みましたわよ」

「お任せくださいませ」


 白を基調にして青と銀を差し色にした制服は、中々纏うことの少ない色ではありますけれど、わたくしにも似合っておりますわね。


 ブラッドナイト王国では黒が尊ばれ、好まれます。白はそうでもないのですけれど、太陽の元ではこちらの方が映えて見えるのでしょう。——ええ、あの憎き太陽の元では。


 はあ、分かっております。四年だけ我慢すればよろしいと、何度も自分に言い聞かせて参りましたもの。ですが、やはりこれから昼夜逆転生活を送り続けなければならないと思うと、溜息も出てしまうというもの。


 気を取り直して、入学式ですわ。そこで留学生として皆様の前で軽いご挨拶をせねばならないとのことですから、ええ、気合を入れて参りませんと。


 寮から本校舎、そこから大講堂へと移動しまして、わたくしは舞台袖に控えているようにと告げられ、一人そこに立つ——と思っておりましたのですけれど、新入生代表の挨拶に抜擢されたというレオンハルトさまが共にいらっしゃいました。


「留学生挨拶、緊張していないか?」


 そう小声で心配を頂きましたので、わたくしも微笑みながらお返し致します。


「ええ、少し……ですが、レオンハルトさまとこうして事前にお話出来ましたから、落ち着きました。ありがとう存じます」

「……ふ。そうか、それなら良かった。——ああ、俺の番が来たようだから、また後で」

「はい、ここで見守らせて頂きます」


 笑みを浮かべながらわたくしに手を軽く上げてから舞台上へ向かわれたレオンハルトさま。こちらから見える横顔からはすっかり笑みが消えていらっしゃって、あら、あの表情だけ見れば確かに氷と表されるのも分かりますわね。


 一切詰まることなく挨拶を終えられたレオンハルトさまは、盛大な拍手に包まれながら戻っていらっしゃいます。わたくしも小さいながらきちんと拍手をしておりましてよ。


「お疲れ様でございました。とてもよく通るお声で、聞きやすうございましたわ」

「ありがとう、フェリシア姫にそう言われると喜びに胸がいっぱいになる。次は姫の番だが、緊張がぶり返してはいないか?」

「ええ、お任せくださいまし。わたくし、こういった場面には強いと自負しておりますもの。——呼ばれましたわね、行って参ります」

「ああ、行ってらっしゃい」


 背筋を確りと伸ばし、ゆったりと一歩を踏み出します。ふふん、わたくしの猫被りはそんじょそこらの令嬢とは一線を画しましてよ。失敗など致しませんもの。


「——ご紹介に与りました、ブラッドナイト王国第三王女、フェリシアと申します。本年より四年間、皆様と学び舎を共にさせて頂く喜びを胸に本日を迎えることが出来ました。ネモ帝国とブラッドナイト王国の間では、交流はあれどもまだ細いものでございます。わたくしの留学を通じて皆様に我がブラッドナイト王国についてより知識を得て頂き、そしてわたくしもまたこの国での経験を余すところなく母国へと持ち帰り、両国間の友好の架け橋の一旦となれれば幸福なことと存じます。知らぬことも多々あります故、どうぞ温かく見守り、お声がけ頂けましたら幸福の至りでございます。これにて留学生挨拶を締め括らせて頂きたく、ご清聴ありがとう存じます」


 最後にカーテシーをして、退場。ふふ、完璧ですわ。お話の最中も笑みを絶やしたり致しませんでした、第一印象は中々良いのではなくて?


 舞台袖に残っていらっしゃったレオンハルトさまも笑みを浮かべて迎えてくださいましたもの、上々と致しましょう。


「お疲れ様、フェリシア姫。流石堂々とした姿だった、そして声もまたよく通り美しかったな」

「まあ、ふふ。お褒めに預かり光栄でございます。この後は来賓のご挨拶と学院長のお言葉で仕舞いとなるのでしたか、わたくしはクラス移動までここにおりますけれど、レオンハルトさまは如何なされるのですか?」

「俺もそう、クラス移動までここで待機だ。姫と共にいられるなら退屈せずに済むし、移動も共にしないか?」

「喜んでお受け致します。レオンハルトさまは既にクラスの告知は受けておられまして?」

「俺はAクラスだ。フェリシア姫は——試験を受けられたのか?」

「はい、今朝に。本校舎の一室をお借りして、その時Aクラスにとお話を頂きましたわ」

「それは凄い。試験問題も多かっただろうに」


 ええ、多くありましたわね。わたくしも昨晩急にクラス決めのテストを入学式前に行うと告げられまして、驚きました。尤も、そのようなことで慌てたり致しません。全ての問題に正解を叩きつけてAクラスを勝ち取りましたとも。


 その時試験官を担当くださった教員の方も何か満足そうなお顔をなされておりましたから、留学生としてどの程度の学力を持つか心配なさっていたのでしょう。


 わたくしの趣味は読書でございます。教科書や参考書、資料集だって本でございますから、この頭の中に全て入っておりましてよ。そしてわたくし専属の教師はそれはもう、ええ、とんでもなく高いレベルを求めて来ましたからね、必死に食らいついたのです。


 そんなわたくしにあの程度の試験、御茶の子さいさいでございますわ。


 レオンハルトさまもAクラスということ、つまり入学式の新入生代表は家柄だけでなくその学力の高さからも選ばれたということなのですね。


 うふふ、確かに昨日のお茶会での会話は全くストレスがありませんでしたものね。頭の良い方とのお話もまた楽しいですから、好んでおりましてよ。

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