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吸血姫の緋唇〜氷の皇子と紡ぐ異種族恋愛譚〜  作者: 猫餅


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29.反撃準備

 ガウスさまの手によって、顔に陽光液をかけられたあの日から、数えて三日ほど経過致しました。


 お母さま——女王陛下には此度のこと、書面にて転送魔術を用い報告を済ませており、そのお返事も返って来ていますけれども、それがわたくしの悩みの種となっております。


 国の主である女王としては厳格なお方ですけれども、母としては子煩悩ですから、帝国貴族がわたくしに危害を加えたという、今回のことを受けて即時の帰国指示が出ました。


 少し前でしたら大喜びで飛びついたでしょうその指示ですが、今は素直に頷くことが出来ないでおります——それは勿論、あの方の存在があるからですわ。


 レーヴェさま——レオンハルト皇太子殿下。かの方を、わたくしは愛してしまいました。


 まだその種火は小さいものですけれども、吹き消すには既に自覚をしてしまいましたから……、手遅れでございます。


 けれども、まだレーヴェさまへこの想いをお伝えすることが出来ておりません。


 何故ならば、安全のためにとお母さまから登校禁止の指示も受けているからでございます。


 この身を守るためには必要なことと分かっておりますけれど——たった数日会えないというだけで、悲しみが胸を満たしてしまうのです。


「わたくしも……吸血種ですもの。愛した方のお傍にいられないことは、大きな精神的負担でございます」


 そう思わず独り言を呟いてしまうほどに、レーヴェさまのお姿をつい探してしまっております——あの方のお姿が見たい、お声が聞きたい。そして、微笑んで貰いたい。


 そのためには、何としてでもお母さまの説得が必要不可欠です。


 このまま黙っていても自体は良くなるどころか、強制的に帰らねばならなくなりますもの。


「ええ、やはり自ら動かねばなりません。まずは、お母さまに手紙を書いて……、レーヴェさまにもお伝えしたいことがございますから、そちらも封筒を用意致しましょう」


 どうしても気恥しさがありますから、お母さまに留学を続けたい理由をお伝えすることを躊躇っていたのですよね。


 ですがそれが足を引っ張るというのならば、この羞恥心、一時胸の奥へ沈めましょう。


 改めて、留学を続ける意思があること、またその理由を書き添えた手紙をお母さまへとお送りします。


 お返事も転送魔術で届けられますから、本日中には手元に来るでしょう。


 それを待つ間に、レーヴェさまへお送りする手紙の用意をしなければ。


 これは侍女から渡すように……、あのサロンルームでお話がしたいと、そう綴って封をしました。


「お(ひい)さま、女王陛下よりお手紙が届いております」

「ありがとう。すぐに読むわ」


 お母さまからの手紙を受け取り、代わりにレーヴェさま宛の封筒を渡して届けるように命じます。


 さて、どんな返事が書かれているのでしょう。


 ……、ええ、まあ、そうなりますわよね。


 わたくしの気持ちは痛いほど理解してくださったのでしょうお母さまからのお返事は、ガウスさまに対する、ネモ帝国側の対応を以て判断するとのこと。


 仮に軽い処罰で済ませるというのならば、帰国命令の撤回はない——代わりに相応の罰を与え、その裏で今回のことを起こした黒幕を見つけ出し、その者にも何らかの対処をするというのならば、留学の継続を認める、と。


「——ふう。最早わたくし一人の手でどうにかなる問題ではなくなりました。となれば……、やはりレーヴェさまにも事情をお伝えして、何らかの対処を願うしかありませんか」


 これがブラッドナイト王国内のことでしたら、わたくしにもやりようはございます。


 けれども、あくまで他国、ネモ帝国で起きたこと。


 この国の者ではないわたくしが、自由に動けるはずもありません——表向きでは。


 お母さまは、暗躍してでもその者……レーヴェさまのお傍にいたいのか、示して見せろと仰っているのです。


 となれば、ええ。示してご覧にいれましょう、大国たるネモ帝国諜報機関にも存在を知られていない——我が国でも、お母さましか存在を知らない、わたくしの影を使ってでも。


「レイヴン、仕事です」


 窓の外、常にわたくしの傍にいる鴉——妖精のはぐれ者。


 彼の目は、至るところにありますから……、此度のこともまた、しかと見ていたのでしょう。


 それでも手出しをしなかったのは、それが彼の役目ではないから。


 レイヴンはあくまでもわたくしの目であり耳、命じねばこの身が危機に晒されようとも、決して手出しをしないように、そういう契約を結んでおります。


「ガウスさまが引き起こした此度の事件、その裏でほくそ笑む卑怯者を見ていますね」


 窓を開けて、木の上に止まっているレイヴンへと問いかけます——彼の声で、返答が返ることはありません。


 代わりに、飛び立つ際に玉を一つ、わたくしの元へと投げ寄こして来ました。


「録画玉……、相変わらず準備の良いこと」


 それは、恐らく決定的証拠が残されているのだろう、録画玉。


 彼が用いる常套手段、本来ならば間近でしか撮ることの出来ないそれを、どうやってか遠く離れた場所からでも、任意の位置を映すのです。


 掌に乗る程度のそれが、わたくしのこの先を決める一手——犯人など、とうに検討がついておりますの。


 けれども、今はまだこれを用いることは致しません。


 彼女は今、わたくしが休学していることに喜んでいるのでしょう。


 その機嫌を、明日にでも悪いものへ変えて差し上げます。


「あくまでもこれは療養ですもの……、吸血種がただやられるだけで終わるなどと、そんな甘いことを思わせてなるものですか」


 ええ、必ず報いを与えましょう。わたくしは、ただ猫被りのお淑やかな王女ではありませんのよ——侮ったこと、絶対に後悔させてやりますわ!


 そのためにも、レーヴェさまにはご協力頂かなくてはなりませんわね。


 恋する乙女というものは、可愛らしく恐ろしく——時に愚かでございます。


 どれだけ賢き者でも、一時の衝動に身を任せてしまう時が必ず来る……、その瞬間、わたくしの勝ちが決まりますのよ。


 そう、これから先は根比べ。


 彼女が勝つか、わたくしが勝つか——いいえ、敗北など有り得ません。


 何せ、わたくしはこれから幸せいっぱいに過ごせば良いのですから。確実に我慢出来なくなるのは、彼女の方です。

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