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吸血姫の緋唇〜氷の皇子と紡ぐ異種族恋愛譚〜  作者: 猫餅


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22.読書サークル本格始動

 選択試験も終わった次の週初め、わたくしは幾つかの授業を受けるための用意をして、侍女の見送りを受けながら登校いたします。


 結局わたくしが授業へと参加するのは、魔術解析、錬金術、刺繍などといった実技の授業だけでございますから、登校は遅くても構わないのですわ。


 ですけれど、より日が高くなってから外へ出るという方がわたくしには辛いものでございますから、朝のうちに登校してしまうのが良いのです。


 それに朝のホームルームというものもございますから。そこでグライリヒ先生から、学院側からの伝達事項のお話もありますので、結局は他の生徒と登校時間も変わりません。


「おはようございます、レーヴェさま、フロレンツィアさま、アルミンさま、エトヴィンさま」

「おはよう、フェリ。相変わらず朝は少し、声が低いな」

「おはようございます、フェリシア姫。今日から本格的な授業がはじまりますね」


 レーヴェさま、フロレンツィアさまから先にお返事を頂き、アルミンさまとエトヴィンさまもそれに続いてくださいました。


 わたくしの席はレーヴェさまとフロレンツィアさまの間、しみじみグルムバッハさまの前や横でなくて良かったと思います。


 だって、今日もわたくしへ向ける眼差しは酷く尖っておりますから。恋とは己を制御出来なくなるものなのでございましょう、わたくしも一国の王女なのですよ。それなのにああして分かり易く敵意を見せるのですから。


「フェリ。授業を受ける際のコマはどんな割り振りだ?」

「こちらの通りに。レーヴェさまは如何なされたのですか?」


 手持ちの鞄の中から紙を一枚取り出し、テーブルの上に起きます。椅子はそれぞれ分かれておりますが、テーブルは繋がっているのですよね。


 お見せしたのは先に配られていたコマ割りされた用紙でございます。そこに自分で受ける授業の曜日や時間を書き込み、時間割表とするように、グライリヒ先生から皆へと渡されたもの。


 わたくしが選択した科目はほとんどが座学の合格を頂いておりますので、実技と一部試験を敢えて受けなかった科目だけでございます。


 そのため、時間にもかなりの余裕がありまして。授業の合間にもサークル活動が出来るとお聞きしましたから、張り切ったのですよ。


「ああ、俺とかなり被っているな。なら、移動も共にしないか? あなたの傍にいたいんだ」

「……、はい。レーヴェさま、自重されなくなりましたわね」

「する必要がないからな。可能な限りフェリの傍にいて、俺に靡くように心を揺らさなければならない」


 その瞳に映る恋慕の情に、赤くなりそうな顔を扇で隠します。もう、どんどん逃げ場を失っている感覚ですわ! ですが、真剣に考えねばなりません。彼の想いを、そしてわたくしの心を。


 ええ、分かっておりますの。これだけレーヴェさまのことを気にしてしまう理由も、何もかも。ですけれど、種族の差がありますから……彼を愛したとして、わたくしを置いて逝ってしまう。


 その事実に耐えられるのか、きっと気が狂ってしまいそうな予感がするのです。それだけ、吸血種の抱く愛は重く、苦しいものなのですから。


「授業の合間はどこに? 学院はどこも日当たりが良いから、フェリには辛いだろう」

「ええ、その間はサークル室に行こうと思っております。本を読みながら過ごしていれば、あのお部屋は日当たりもそう良くないですから、わたくしも体が辛くありませんの」

「なら、俺も共に。本棚も搬入させたから、そろそろそこを埋めて行きたい」


 レーヴェさまの言葉にわたくしも頭を縦に振りました。先日サークル室に搬入された本棚は、まだまだ隙間だらけなのです。ですから、そこを埋めて行くことを第一の目標にわたくしたちは掲げました。


 このネモ帝国で手に入る書物に関しては、レーヴェさま方の方がよくお知りでしょう。ですが、わたくしも多くの本をブラッドナイト王国から持ち込んでおりましてよ。


 それらは全て写本、原本は本国の自室へ全て収められております。ですから、サークル活動のために寄贈しても何ら問題はございません。


 レーヴェさま方も他国の本ということに興味を持っていただけているようですから、場合によっては本国より取り寄せも致しましょうか。


「ホームルームが終わったら、早速サークル室に行こう。勧めたい本がある」

「まあ、楽しみです。わたくしもこれは是非という本がございますから、読み合いを致しませんか?」

「良い提案だ、そうしようか」


 ネモ帝国へ留学に来てからまだ少ししか過ぎておりませんからね、本屋に向かう時間がありませんでした。図書館に入り浸っても良いのですが、折角の読書サークルなのです、本棚を埋めたいのですよ。


 フロレンツィアさま方もまた多くの試験を合格されて、受ける授業は少ないとのこと。ですから、わたくしたち読書サークルのメンバーは授業の合間にサークル室に自然と集まることになりそうです。


 ホームルームも終わり、わたくしとレーヴェさまは他の方々に先んじてサークル室へと向かうことになりました。


 本校舎と実験棟、体育館へ従者や侍女が立ち入ることは許されておりませんが、それ以外の、例えばサークル室のある文化棟には許可が降りています。


 なので、わたくしとレーヴェさまが揃ってサークル室へ入りましたら、レースのカーテンを閉めた薄暗い室内にランプの灯りがぽつぽつ点る室内に、執事と侍女の姿がありました。


「テリーザ、紅茶を二人分淹れて頂戴」

「かしこまりました、お(ひい)さま」


 侍女の一人、人間種のテリーザにそう指示を出してから、わたくしとレーヴェさまは共に本棚へと足を向けました。うん、少しは埋まって来ましたわね。


 わたくしたちが授業を受けている間、侍女たちにはこの本棚へ持ち込んだ本を置くようにと指示を出しておきました。きちんと見やすいように整理されておりますし、ふふ、流石わたくしの侍女たちですわね。


 レーヴェさまはわたくしが持ち寄った本の中から、わたくしはレーヴェさまが持ち寄った本の中から、それぞれ小説を手に取りました。


 ふと目が合いましたから、そっと笑い合って、一つのテーブルを挟みソファへと腰かけます。それに合わせたタイミングで紅茶が置かれましたので、本を開く前に一口。


 ああ、美味しい。さて、授業があるのは三限目でございますから、ゆっくり過ごすと致しましょう。

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