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吸血姫の緋唇〜氷の皇子と紡ぐ異種族恋愛譚〜  作者: 白瀬 いお


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20/31

20.自重を止めた氷の皇子

 レーヴェさまの血を極小量口にしてしまった日から、六日が過ぎました。


 試験は全て終わり、わたくしは受けた科目全ててⅣまで合格点を頂きましたから、かなりの自由時間を確保致しました。尤も全く授業へ出ないということは致しませんけれど。


 特に実技のある科目は、座学が免除されるというだけですから。中間試験や期末試験もそうなのです、実技の分については授業や試験に出席し、合格点を頂かなくてはなりません。


 そして、本日より始まる授業には最初の一回目の義務づけられておりますので、わたくしも出席致します。ただ、一つ問題がございまして。


 あの日、レーヴェさまから想いを打ち明けられた日から、かの方はわたくしに対してかなり距離が近いと申しましょうか、常に口説いて来るのです。


「おはよう、フェリ。今日も美しいな。ああ、先週とはまた異なるヴェールを被っているのか、そちらも良く似合う」

「……おはようございます、レーヴェさま。ええ、些細な違いですのに、よくお気づきになられましたね」

「あなたのことは、つい目に入ってしまうからな」


 そう言ってわたくしに向かい微笑まれるレーヴェさまは、相も変わらず常春の笑みを浮かべながら、その瞳にだけは焦がれるような想いを乗せて見せるので、わたくしも照れてしまいましてよ。


 そしてもう一つ、グルムバッハさまからの視線が痛くて堪りません。分かっております、恋する乙女の嫉妬ですもの、そのような強きものにもなりますわよね。


 ええ、ですが常春のレーヴェさまと極寒のグルムバッハさまから両極端な視線を頂くのは、全く以て嬉しくはございません。そしてフロレンツィアさま方は微笑ましそうに見つめるばかり。


 時折「レオンハルトさまはフェリシア姫を深く愛しておられますのね」と揶揄いさえもなさって、もう、レーヴェさまも嬉しそうな顔をしないでくださいまし。


「今日もサロンルームで昼食を共にしよう。あなたが食事をするところを、ゆっくりと眺めたい」

「レーヴェさま……それは口説き文句ではないのでは?」

「そうか? 恋しい相手のことはずっと見ていたくなるものだろう」

「……そ、そう、ですか」


 言い淀みもせず、さらりと告げられるお言葉。ええ、それが単なる言葉ならばどれだけ良かったでしょうか。そこに含まれる感情を、わたくしはもう知っておりますのよ。


「フェリの戸惑う気持ちもよく分かっているつもりだ。だが、俺もあなたを手に入れるために行えることは全てするつもりだ」


 ざわざわと各々方が好きに会話をなさるクラス室で、レーヴェさまはわたくしに体を寄せて囁かれます。ああ、態と声を低くしておりますね、そして吸血種の耳が良いからと殊更小さなお声で。


 もう、なんという方なのでしょう。一直線、と申しましょうか。氷の皇子ではなく、常春、いえ、真夏に降り注ぐ太陽光のような方ですわ。


 眩しくて、目を焼かれてしまいそうな命の輝き。その身をわたくしに差し出すとさえ捉えられかねないお言葉の数々。本当に、この身を愛しているのだと伝える、あの、血の味。


 ああ、いけません。思い出してはいけなくってよ。レーヴェさまはネモ帝国皇太子、子供を作り難い吸血種との婚姻なぞ——いえ、違います。そうではなくて。


「俯かず、俺を見てくれ。その瞳に住みたい、そうすればあなたの中にずっといることが出来るのに」

「あ、あの、レーヴェさま……、お戯れは、程々になさってくださいまし……」

「戯れたことなど一度もない。フェリ、あなたの前では余裕なんてなくなってしまうんだ」

「……!」


 顔が熱くなってしまいます。扇を取り出して口許を隠しましたけれど、それでも顔色は知られてしまいますから……ああ、フロレンツィアさまが物凄く楽しそうなお顔をさせていらっしゃいますわ。


 わたくし、てっきりフロレンツィアさまが皇太子妃に最も近いお方だと思っておりましたけれど、この様子ではお二人の間にそういった熱はなさそうです。


「フロレンツィアさま……」


 困り果てて、フロレンツィアさまに助けを求めましたけれど、応えがある前にレーヴェさまに左手を握られました。わたくしよりずっと大きくて、少し節張った男の人の手。


 こうして異性の手に触れるなど、お父さまとお兄さま方以外にはいなかったのです。ですから、トクトクと速くなった鼓動も緊張から。その所為ですわ。


「フェリシア姫が我が国の皇太子妃になられた暁には、沢山お茶会を致しましょう」

「いえ、あの、そんな……わたくしは、その……」

「レオンハルトさま、押して押して押すのです。フェリシア姫をこの国に是非とも迎え入れてくださいませ」

「勿論だ、フロレンツィア嬢。そのために俺と手を結んでくれ」

「ええ、喜んで。ふふ、そういうわけですから、フェリシア姫。お覚悟なさってくださいね?」

「そんな、フロレンツィアさままで……」


 アルミンさまもエトヴィンさまも、ただ楽しそうに笑っていらっしゃるだけ。わたくしの味方はどなたもおりませんのね、知っておりましたけれど。


 ああ、ここにお母さまのお姿がなくて本当にようございました。もし見られでもしていたら、向こう五十年は揶揄われますもの。ええ、何せ第一王子たるお兄さまがそうでしたから。


 ですが、わたくし、何故こうもレーヴェさまを強く拒絶出来ないのでしょうか。一国の皇太子だから? いいえ、そんなことはございません。


 まだわたくしも混乱の最中にいるということなのでしょうね、だって今も思考が纏まりませんもの。それに、きっともう暫くもすればレーヴェさまだってわたくしの性格をよく理解なさる筈。


 面倒臭がりで、自室にさえ帰るのが面倒臭くなった日には、王城の図書館に泊まり込むことさえもありましたのよ。


 そんなわたくしが、皇太子妃なぞ出来るはずもありません。いえ、出来ないことはありませんし猫を被るのも大得意ではありますけれど。


 第一、人間種の皇太子の妃が吸血種など、寿命も価値観も釣り合いがとれなくてよ。


 ですから、わたくしは——レーヴェさまの想いに、まだ戸惑うことしか出来ないのです。


 考えてしまったら、絆されてしまう気がしていますから。

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