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吸血姫の緋唇〜氷の皇子と紡ぐ異種族恋愛譚〜  作者: 白瀬 いお


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14.恋する乙女の視線

 どこの国でも王侯貴族の婚姻というものは、何かしらの意図を持って行われるものでございます。


 尤も我がブラッドナイト王国において政略結婚などというものはとうの昔に廃れてはおりますけれど、お見合いからお互いに惹かれての婚姻は数多くありましてよ。


 お母さまとお父さまは恋愛結婚、第一王女であり王太女てあるお姉さま、第二王子であるお兄さまも恋からの婚約。


 第二王女のお姉さまと第一王子のお兄さまはお見合いからの婚約ですから、その割合は王族以下もまた同じ程度なのです。


「ああ、家族の顔を思い出すと寂しさを胸に抱いてしまいますわね。ふふ、わたくしもまだ幼いということなのでしょうか……」


 いけませんね、感傷に浸ってしまいました。さて一方のネモ帝国ですが、こちらは調べた限りではお見合いからの婚約の割合が少々多いようでございます。恋愛からの婚約と大した差ではないようですが。


 そして極々少数、幼い頃からの婚約からの婚姻という例もあるようですが、こちらは上手くいくパターンと破局するパターン、半々のようですわ。


 またネモ帝国皇太子殿下、レオンハルトさま——レーヴェさまには婚約者もその候補もいらっしゃらないことは事前調査済みでございます。


 そうでなければわたくしもレーヴェさまとお呼びすることはございません、痴情のもつれから国際問題に発展など溜まったものではありませんもの。


「恋慕の情による争いは醜いものでございます。けれども、当人となればそれを自覚出来ないもの。まあ、わたくしにはまだ先の話でありましょうが」


 そう思っておりましたのも昨晩のこと。入学式のあった昨日から感じておりましたが、これよりは試験を終えた後の待合室での一幕でございます。


 どうにもお顔立ちも整っており常春のような優しさをお持ちのレーヴェさまに懸想するお方もいらっしゃるようでございます。


 そう、例えば入学式初日にわたくしを罵倒したご令嬢。更にもう一方、わたくしに対して強い敵意をお持ちのご令嬢がいらっしゃるようですわ。


 それがグルムバッハ侯爵家子女、アンネマリーさま。


 グルムバッハさまはレーヴェさまへ深い想いを抱いていらっしゃるようで、共に行動していることの多いわたくしやフロレンツィアさまに敵意のある視線を投げかけることが多くございます。


 ただ、そのご様子をレーヴェさまもご覧になっているのですよね、気づいていらっしゃらないのかしら。その時のレーヴェさまは厳しい表情をなさっていてよ。


 はあ、気づいておりましたらこんなことにはなっておりませんわよね。ああ、今日もまた鋭い視線が痛いこと。


 わたくしは日光対策でヴェールを目元まで被っておりますけれど、それに対してレーヴェさまがお席を外されている時に直接ではなく、しかしわたくしに聞こえるようにグルムバッハさまが独り言をこぼされました。


「ああしてまで皇太子殿下の気を惹きたいだなんて、浅ましい……」


 ええ、まあ恋をすると視野が狭くなるとは聞きますから。ですが、何も知らずにそうして言葉になさるのは良くないですわね。フロレンツィアさまも、そしてアルミンさまとエトヴィンさままでお聞きになられていてよ。


 レーヴェさまへ告げ口するようなことは致しませんけれど、仮に皇太子妃の座を求めるのならば、その側近たるお二方や血の繋がりが濃いフロレンツィアさまに聞かれない方がよろしい発言ではないでしょうか。


「フェリシア姫、目の調子はいかがですか? この場所は日光から遠くはございますが、痛みなどは?」

「ええ、フロレンツィアさま。ご心配おかけしますわ。問題ございません、少々眩しくはありますけれど……吸血種ですもの、仕方のないことですわ」

「……ッ!」


 フロレンツィアさまがわたくしを庇うように普段よりもよく声を通らせながら仰います。それにお返事をしますと、グルムバッハさまは更に憎らしいという顔でわたくしだけでなく、フロレンツィアさまにまで鋭い視線を投げつけました。


 恋する乙女は恐ろしいとは知っておりますが、貴族令嬢がそこまで感情を露わにしてよろしいので? ええ、普通の貴族であるならば良いでしょう。ですが、グルムバッハさまが懸想されるのは皇太子殿下。


 その隣に立つのならば、鉄の仮面が求められましてよ。常に笑顔で、隙もなく、かの方の隣に立つのが当然と思われねばなりません。


 それを思いますと、あのレーヴェさまをレオンと敬称もなくお呼びになるご令嬢もまた彼の婚約者候補としては中々に厳しいところがございましょう。


 現状最も皇太子妃としての可能性が高いのは、フロレンツィアさまでしょうか。これはよくよく注意技を払い、この国の次期皇妃を見定めなくてはなりませんわね。


 そうすることで、我がブラッドナイト王国の利にもなりましょう。ええ、勿論そのような考えは表情にも雰囲気にも出すことは致しません。


「フロレンツィアさま。一つお聞きしたいのですけれど、昨日レーヴェさまにお声をかけた後に走り去られたあのご令嬢、どの家の方ですの?」

「ああ、あの方ですか……。ガウス伯爵家の子女です。何でもガウス伯爵——彼女の母君が皇后さまとご学友だということで、幼き頃からの知り合いなのだそうですよ」

「成程」


 それでレーヴェさまに親しく声をかけていらっしゃったのですね。あまり歓迎されてはいないようですが、あのような有様では仕方のないことでしょう。


「皇太子殿下は氷の皇子と評されるほど、自分にも他者にも厳しい方でいらっしゃいますよ。ですが、フェリシア姫には常春のご様子」


 氷の皇子……ええ、レーヴェさまの異名ということは存じ上げておりましてよ。しかし、厳しいお方でしょうか? わたくしがまだそのようなところを見ていないだけなのでしょうか。


 常春の笑みをお持ちの、お優しい方ですけれど、それと自他共に厳しいというのは別でございますもの。


 きっとわたくしには他国の王女ということで、それもまた控えめにしてくださっているのでしょう。そう考えますと、外交にも秀でてらっしゃるのかしら。


 何れにせよ、恋する乙女たちの視線は入学二日目の今日も鋭いものでございました。わたくし、完全に敵として看做されておりますのね。


 身分以外でレーヴェさまと夫婦(めおと)となる要素などありませんのに、本当に不思議で仕方がありません。

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