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吸血姫の緋唇〜氷の皇子と紡ぐ異種族恋愛譚〜  作者: 白瀬 いお


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11.昼食の時間

 入学式後のガイダンスは午前中で終わり、現在時刻十三時は既に放課後でございます。


 昼時でもありますから、お腹が空いてまいりました。しかし皆様の前で食事をするのもどうでしょう、日中に活動する日は血をこまめに飲まねば体が重くなってしまうのですよね。


 本当は学友との楽しい昼食というものに興味がありましたけれど、仕方がありません。食堂へ向かうとお話されているレーヴェさまたちにお断りをせねば。


「皆様、申し訳ございません。わたくしは食堂での食事が難しゅうございます。ですから、どうぞ皆様だけで向かってくださいまし。わたくしも食事を終えましたら、その後食堂で合流致しますので」

「フェリ……いや、折角だから共にしよう。何、食堂だけで食べねばならないということはない。そうだな、サロンルームで昼食というのはどうだ?」

「レーヴェさま……」


 まあ、そんなに気を使って頂かなくてもよろしいのに。それに、人間種の皆様には少々ショックな食事風景ではなくて? わたくしは吸血種、血を糧とする生き物でございすから。


 そんな疑問を口にする前に、フロレンツィアさまが「フェリシア姫のお食事について、わたしたちにも知識がありますわよ」と仰いました。だから心配せずとも良いとのことでしょうか。


 そうまでしてわたくしと昼食を共にしたいと思ってくださるなんて、お優しい方々ですわ。きっと留学先で一人の昼食は寂しいとお考えくださったのでしょう。


「……フロレンツィアさまがご存知の通り、わたくしの食事には血が含まれます。けれど、我が国で提供同意を受けた方から頂いたものを保存した分でございますから、ご心配はなきよう」

「分かっている。……だが、フェリ」


 レーヴェさまの美しいお顔が、わたくしの耳元へと寄ります。そうしてかけられた吐息に、体が驚きから少し揺れてしまいましたわ。


「俺の血であれば、きみに捧げよう」

「……!」


 ま、まあまあ、何ていけない方なのでしょう! ええ、分かっておりますわ、きっとレーヴェさまは存じ上げないのでしょう。その言葉が、我が国では婚姻の申し出として有名であるなんて!


 しかし、知らないからといって不意打ちでそういったことを言われると、わたくしも驚きに目を丸くしてしまいましてよ。淑女としてはしたのうございます。


 こほん。心の中で咳払いをしまして、平常心を呼び戻します。猫、出番ですわよ。わたくしに被さりなさい。


「一国の皇太子殿下が、そのようなことを安易に口にしてはなりませんわ。わたくしが本気にしてしまったら、どうなさるのです? いけないお方……」


 口元を扇で隠し、すっと目を細めます。そうして囁き返すように声を低めてお返しすれば、レーヴェさまの喉がごく、と鳴ったご様子。うふふ、少し驚かせてしまったかしら。


「殿下の負けですね。サロンルームの手配も済ませましたから、いどうしましょう」


 見つめ合うわたくしとレーヴェさまにお声かけをくださったのは、アルミンさま。彼の言葉にはっと気を取り直したご様子のレーヴェさまが移動を宣言なされるので、わたくしたちも後に続きます。


 わたくしとレーヴェさまが並び、その後ろにアルミンさま、フロレンツィアさま、エトヴィンさまの順で横に並んで移動でございます。


 学院校舎の廊下は広く、こうして歩いていても容易にすれ違えるのが良いところですわね。


 本校舎から渡り廊下を通って、昨日通った階段を昇りサロンルームに入ります。本日は先にカーテンを閉めてくださったのですね、気配り上手ですこと。


 五人それぞれで席に座り、各々の給仕が昼食の提供を始めます。こうして食堂以外の場所で給仕を受けられるのは、このサロンルームに調理場が隣接されているからであるそう。


 わたくしの専属料理人も皆様の料理人と共に調理場をお借りして、食事を用意してくださいます。ああ、メニューは基本的に全員同じものなのですね。


 皆様が水と共に頂くのを、わたくしは血と共に。勿論匂いが広がらないように魔術が施されたワイングラスに注がれたもので、でございます。


 わたくしにとっては良い香りも、人間種にとっては鉄臭いとのことですから、そういった配慮は当然しておりましてよ。


 四人はネモ帝国の、わたくしはブラッドナイト王国の食前の祈りを捧げてから昼食を頂きます。


 育ち盛りでございますからね、全員のお皿の上にはお肉料理がありましてよ。焼き加減は皆様ミディアムかそれ以上でございますけれども、わたくしは表面ばかりを焼いた程度のレアでございます。


 たっぷりの血を使ったソース、こちらは人間種には分からない程度に匂い消しも施されておりますわね、流石我が専属料理人ですわ。


 すっとナイフが通る牛肉を切り分け、一口の大きさにします。そうして口へ運びますと、肉の旨味と血の甘さが広がって、とても美味しゅうございますわ。


 付け合せのポテトも良いふかし具合でございますね、バターの塩味と良く合っていてよ。パンも程良い硬さ、そして何より新鮮な血でございます。


 ああ、おいしい……昼間の活動で疲れた体に良く染みて、もっと、もっとと願ってしまいそう……。


 いけませんわ、ここではわたくし一人ではございませんの。はしたない顔など見せられはしません。


 あ、あら? どうしたのかしら。皆様の手の動きが止まって、わたくしに視線が集まっております。何かネモ帝国特有のマナー違反をしてしまったのでしょうか?


 そういったものは頭の中に全て入れておりますから、思い返してみましたが該当するものはございません。それとも、吸血種の食事風景が物珍しかったのでしょうか。


 恐らくそうなのでしょうね、ブラッドナイト王国以外に住まう吸血種というのは数がかなり少ないですし、夜行性ですから昼間に活動する人間種との触れ合い、更に食事となればほとんどないのでしょう。


 しかしこれだけ見つめられると、わたくしも少々気恥ずかしくなって参ります。あの、皆様。わたくしに気を取られているとお食事が冷めて固くなってしまいましてよ。


 そう申し上げますと、各々方、ようやっと食事を再開されました。わたくしもワイングラスに残る血液を少しずつ味わって、昼食の時間は終了を迎えたのでございます。

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