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短編小説  作者: ま行
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ピアノ

 そのピアノがいつからそこにあったのか、知っている者は誰もいなかった。


 古くからあるとすると綺麗すぎるし、新品かと言われればそうではない。ただ、ずっとそこにあり続けた。


 何の変哲もないグランドピアノ、歴史的価値がある訳でもなければ、希少で高価なものという訳でもない、特別優れた音を奏でる事もなかった。


 しかし、人々はそのピアノの周りに集まり演奏を楽しんだ。弾ける人も弾けない人も、ピアノに触れて鍵盤を叩けば、音楽の楽しさに引き込まれた。


 上手な演奏には拍手喝采を、未熟な演奏には健闘をたたえさらなる研鑽を、大人顔負けの子供の演奏には感嘆の声が漏れ出た。


 ピアノが人を惹きつけるのか、はたまた人がピアノに惹きつけられるのかは分からない。ただ、そのピアノの周りにはいつも人で溢れていたのだけが事実だった。


 それでもいつかは終わりが来る。ピアノは場所の確保の為撤去される事になった。人々からはそれを惜しむ声が聞かれ、反対運動を起こす者まで現れた。しかし、それでも結果は覆らずに、ピアノは撤去される運びになった。


 撤去を依頼された業者でさえ、それに従うのは渋々の行動だった。彼らもまた演奏を楽しんでいた人たちの一人だったからだ。


 いよいよ撤去当日、その決定を下した議長が、最後の記念にとピアノの前に座った。マスコミ向けのパフォーマンスだった。


 その時、ピアノが突然音を奏で始めた。議長は鍵盤に触れてもいない、マスコミ相手に写真撮影に応じていたからだ。


 鍵盤は沈まず、内部の仕組みも作動していない、それでもピアノからは音が鳴り続けた。そこにいる誰も、その音楽が何なのか知らなかった。


 異変が起きてから数分後、今度はピアノの前に座る議長に異変が起きた。突然苦しそうに悶えたかと思えば、胸を手で押さえて倒れてしまった。すぐに救急車が呼ばれ病院に運ばれたが、時すでに遅く帰らぬ人となってしまった。


 ピアノは議長が席から離れると、スッと何事もなかったかのように演奏を止めた。異様さと不気味さに空気は支配される、結局ピアノ撤去の話は流れて、そのままその場所にピアノは安置される事になった。


 何も知らない人々はまたピアノが弾けると喜ぶが、その場に居合わせた人たちは恐怖に震えていた。


 あのピアノの機嫌を損ねたら何をされるか分からない、起こった出来事を誰かに話せば、それが怒りの引き金になりかねない。世間に公表すれば、もしかしたらあれ以上の仕返しが待っているかもしれない。


 ピアノは今日もそこにあった。人々は音を奏で音楽に酔いしれる。しかし、本当にその人が音を鳴らしているのか、それはもう誰も調べる事は出来なかった。

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