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短編小説  作者: ま行
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星空

 父は星を見るのが好きだった。


 別に星に詳しい訳ではない、星座も知らないし、種類も知らない、説明を求められればしどろもどろ、だから本当にただ星を見るのが好きなだけの人。


 そんな父に付き合って私も星を見るのが好きだった。やっぱり父と一緒で星に詳しくはならなかったけれど、ただ綺麗な星を眺めているだけでそれで満足なあたり親子というものだ。


 ある時、父に聞いた事がある。


「どうして星を見るのが好きなの?」

「難しいなあ、どうして好きなんだろう」

「分からないのに好きなの?」

「理由が説明出来ないから好きなのかもね」

「よく分からないなあ」

「アハハ、ごめんね、上手く説明できなくて」


 父は笑って私の頭を優しく撫でた。その柔和な笑顔は、どうしてかつられて笑ってしまう魅力があった。はっきりとしない答えでも、それならそれでいいかと許せてしまう力があった。


 それから暫くして、父は早くに大病を患ってしまった。日に日に弱る父を見て、私はどんどん気が滅入った。思春期も相まって、私は父とのコミュニケーションの時間がどんどん減っていた。


 父は私に星を一緒に見ようと誘うけれど、私はそれを断ってしまった。何度も、何度も何度も、寂しそうに笑う父を置いて、私は別の事に夢中になった。


 とうとう父の命があとわずかという時、どうしてもと強く言われて私は渋々と父と一緒に夜空の下に出た。夜風に当たれば体調を崩すかもしれないのに、こればかりはどうしてもと頑なであった。


「父さんな、何で星を見るのが好きだったのか、今やっと分かったよ」


 突然そんな事を言いだして、父は痩せて骨ばった手を私の手に添えた。


「元々星を見るのが好きだった。だけど、別にそれはただ何となく眺めていたかっただけ。父さんが好きだったのは、お前と一緒に星空を眺めているあの時間だったんだ」

「え?」

「あの星は綺麗だねだとか、あの星は他より輝いているだとか、そんな些細な感想を言い合えるあの時間が好きだったんだ。ああ、気がつくのが遅くなってごめん。もっと早く教えてあげたかった」


 父は笑顔を浮かべたが、それは力がなくて、涙が一筋こぼれたと思ったら、どんどんと溢れては流れていった。私はそれまでの自分を後悔した。教えてもらって今更気がついたのだ、私も父と一緒に星を見上げるあの時間が好きだった事に。


「ああ見てごらん、今日は流れ星がよく見える」

「本当だ。素敵だね」

「綺麗だなあ、また一緒に見ることが出来てよかった」


 それから私は、残り少ない父との時間を何よりも大切にした。穏やかで優しい、あの笑顔から離れがたくて、短い間だったけれど大切な時間を取り戻す事が出来た。


 時が経ち、私にも家庭と子供が出来た。忙しい毎日に押しつぶされそうになりながらも、星を見上げる事だけはやめなかった。


「お母さんはどうしてそんなに星を見るのが好きなの?」


 息子にそう聞かれて、私はこう答えた。


「どうしてかな?説明できないから好きなのかもね」

「それって変なの」

「ふふっ、そうだね、変だね」


 そうして私は息子の頭を優しく撫でた。あの日の父と同じように、ありったけの愛情を込めた。

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