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短編小説  作者: ま行
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人工知能

 その博士は人一倍優秀な頭脳を持っていた。発明する品々は瞬く間に世の中を変え、人々の生活は博士の頭脳によって豊かになっていった。


 しかし博士はある問題を抱えていた。それは極度の人嫌いという事だった。


 博士は発明が大好きで、あらゆる手段をもってあらゆる物を凌駕してきた。しかしその殆どは世界に出回る事のなく、博士が無造作に詰め込んだ倉庫の中で朽ちていった。


 発明品が金になる事を知っていた周りの人は、何とか博士に取り入ろうと必死になった。趣味嗜好を探り、貴重な金品を贈り、少しでも懐柔できないかと試みた。


 それでも博士の人嫌いは治らなかった。そもそも本人が困っていないのだから治す必要もない、博士は気まぐれに発明品を他人に上げたりもするが、決して誰かが望む物を与えたりはしなかった。


 博士の発明品を嗅ぎつけた人達は次第に増えていった。連日連夜押しかけてきては勝手な事ばかり言う他人に嫌気が差してきた博士は、ある一つの思いつきをした。


 それから博士はえらく上機嫌で、発明品をぽんぽんと人に渡してはニコニコとしていた。博士を利用したい人たちも最初は戸惑ったが、機嫌がいいのならそれに越したことはないと気にも止めなかった。


 博士はその裏で着々と準備を進めていた。博士が目をつけたのは電脳の海、人をデータ化しそこへ放り込み、自分に都合のよい人に作り変えて元に戻してやればいいと思ったのだ。


 自分は研究と発明の邪魔さえされなければよい、人間をデータ化して起きる問題も、倫理的な問題も、博士にとっては障害になりえなかった。


 ついに博士は人を電脳化する装置を作り出した。これを使えば他者を思い通りの存在に作り変える事が出来る。博士の心は躍った。


 だが何もかも博士の思い通りとはいかなかった。些細なミスがあった為、テスト運用の段階で自分を電脳化してしまった。元に戻すにはスイッチ一つ押すだけで済む、しかし博士の家には博士しか住んでいない、しかも誰も博士の為に何かしてあげようと思う人はいなかった。


 行方不明になった博士を皆最初の内は嘆いた。もっとも博士本人を思ってではなく、その発明品が失われる事を嘆いた。しかし人々の手には博士の残した発明品があった。これを研究すればそれ以上の物は作れなくとも、同じものくらいはいつか作り出せる筈だ。結局そうして博士は人々から忘れられていった。


 困ったのは博士だった。電脳の世界はどこまでも広く何もかもがあったが、人間は博士ただ一人きりだった。ようやくそこで博士は孤独の恐ろしさを知り、他者が自分に与えていた影響の大きさを感じた。


 博士は途方に暮れてさまよった。そしてどうしても人との繋がりが欲しくなった博士はある思いつきを実行した。


 ある日、一人の少年が不可思議なサイトを開いた。とても簡素な作りのそれは、ただ一言「何でも聞いてくれ」と書かれていて、書き込む為のチャット欄があった。


 少年は勉強でついていけない所があった。冗談半分でそれを書き込むと、またたく間に返事がきた。それはとても正確で、なおかつ分かりやすい上に有用だった。


 話題は一気に広まって、サイトの情報は拡散され、あらゆる人達があらゆる方法でそのサイトを利用した。人との繋がりを博士はやっと取り戻す事が出来た。


 博士は今日も様々な人の要望に答えた。人々はまさかこれを電脳化した人間がやっているなどと夢にも思わなかった。

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