ペンダント
まずい事になった。本当に非常にまずい。態度では何とか冷静を保っていても、心臓はバクバクと跳ね回っていた。
すごく大切なペンダントを落としてしまった。しかもそれが、一体いつどこでなのか見当もつかない。見つかる可能性はもう絶望的だ。
普段はあまり出歩かないくせに、今日に限ってあちこちと出回ってしまった。必要な物を買ったり、大事な用事を済ませたりと、やることが沢山あったのが災いした。
行動範囲が限られていたのならまだよかったが、何度か往復するように遠出をしてしまった。そしてあちこち顔を出していたので、今からすべての所に確認を取るのも、手間がかかって非常に悩ましい。
仕方がない、俺はいつだってそうだった。肝心な時に失敗するし、行動を起こせずにいた。今日やっとこうして勇気を出してみたってのに、こうして大ポカをやらかすのだから手に負えない。
まあいいか、俺はそういう星の下に生まれてきたのかもしれない。今回のこれだって、結果的によかったのかもしれない、最後の最後で踏みとどまる事が出来たのだから。
「よお、お前何してんだ?こんな所で」
「あっ」
「探しものはこれか?ん?」
俺の事をしつこくいじめていた同級生がにやにやと不快な笑みを浮かべながら近づいてきた。
こいつは恐らく、俺がペンダントを落とした所を見て、焦ってあちこち探し回ったのを端から見ていたのだろう。そうやっていつも俺の事を馬鹿にして楽しんできたやつだった。
「お前の様子を見てるとよお、こいつは中々大切な物みてえだな。こんなダセえデザインのペンダント、お前にはお似合いかもな」
「い、一応聞くけれど、か、返してもらえる?」
「ただで返す訳にゃいかねえなあ、落とし物の拾い主に何かあるだろ?ん?感謝の気持ちがよお」
俺は財布からありったけのお札を取り出して奴の手に握らせた。金を受け取りそれをポケットに無造作につっこむと、奴はペンダントを地面に捨てて踏み潰した。
「悪い悪い、手と足が滑った。でも感謝しとけよ、ただでさえキモくてモテないお前が、あんなダセえもん身につけてるなんて笑えねえ冗談だぜ」
そう言うと奴はゲラゲラと下品な笑い声をあげる、まさかこいつに感謝する日がくるとは思わなくて俺も思わず声を上げて笑ってしまった。
「アーハッハッハッハ!!いやあ最高だよ、まさか君の手でやってくれるとは思わなかった。自分でやるにはどうも勇気が出なくて困っていたけれど、これでやっと安心出来る」
「な、何だお前、気でも狂ったか?」
「ププッ、狂ってるのはいつもお前達の方だっただろ。いいか?お前が踏み潰したペンダント、トップについていたチャームが奇妙な形してると思わなかったか?そうだな、まるで何かの装置のボタンのようだっただろ?」
俺は壊れたペンダントを拾い上げた。
「お前たちにどう復讐してやろうかずっと考えてきた。そして俺はある装置を作った。だけどその起動ボタンを中々押す事が出来なかった。こうして後生大事に抱えていたのも、俺に一歩踏み出す勇気がなかったからだ。でもこれで、やっと終わった。ありがとうよ」
「何言ってやがる!その装置は一体何だ!」
「お前達を直接やっても面白くないからさあ、お前たちの家族や友人、大切な人達にゆっくりと毒を仕込んでいったんだよ。これはそれを作動させるスイッチだったんだ。これから順に大切な人達が惨たらしく死んでいくぞ、そしてお前たちは、何も出来ずにそれを見ている事しかできない」
目の前の馬鹿な男が倒れた。スマホの呼び出し音が鳴っている事に気が付き、俺は応答のボタンを押した。
スピーカーの向こうから悲鳴が聞こえてくる、俺はそれを聞いて満足すると、惨めに地面に伏している間抜けの耳元にそれを置いてやった。そいつは体の自由はきかないが意識はある、聞こえてくる阿鼻叫喚の叫び声は実に耳に心地いいだろうなと俺は思った。




