背後霊
「あの、もしそこのお方」
「ん?」
俺は珍妙な格好をした大男に呼び止められた。やけに古風な格好をしていて、とても浮いている。
「あなた憑いていますよ」
「ツイてる?いやさっきパチンコで全額スッてきたとこだけど?」
「いえそうではなく、あなたには霊が取り憑いているのです」
「零?まあ財布の中身は今は零だけど」
「いやだからそうではなく」
その大男の言う事がいまいち要領を得ないので、俺は立ち去ろうとした。負けた分を取り戻す為に、断腸の思いで貯金箱を割り、今度は馬券につっこむつもりなのだ。
「いやいやお待ちなさい!あなたには幽霊が取り憑いていると言っているのです!」
「はあ、幽霊ですか?それはどうもありがとうございました」
「いやだから立ち去ろうとしないで!」
大男は俺の事を必死になって引き止めるので、俺もいい加減話を聞いてやるかと思い立ち止まってやった。
「それで、幽霊ってなんすか?」
「あなた幽霊をご存知ないのですか!?」
「はあ、まあ」
「なんとも嘆かわしい、いいでしょう私に付いて来なさい」
俺は仕方なしに大男の後について行った。何だかよく分からない雑居ビルの一室に連れて行かれた。ソファーに座るように言われたので遠慮なくどかっと座った。中々に高級なソファーでふかふかだ。
「あなたにはたちの悪い背後霊が取り憑いています。あなたは先程パチンコで大負けしたと言いましたね?きっとその背後霊があなたの運勢を捻じ曲げているのです」
「ええ!?マジですか!?」
「本気も本気で言っているのです。私は霊を見る事の出来る特殊な力を授かりました。そして幽霊に悩み困っている人の為に修行を積んで除霊の力を得たのです」
「じゃあ俺の背後霊とやらも取れるんですか!?」
「ええ勿論、私にお任せなさい。しかしちょっとばかりお金を頂きます。私にも生活がありますからね」
「その背後霊とやらが取れれば俺は賭け事で大勝ちできるんだ!幾らだって払いますよ!でも今は持ち合わせがない、どうすればいいですかね?」
大男は頭を捻って悩んだ末、ぽんと手を叩いて言った。
「それでは今ここで支払いの念書だけ記して貰いましょう、そうしたら私が背後霊を除霊させてもらいます」
「なんだそれだけでいいなら書きますよ、さあこれでいい。早く俺の背後霊とやらをとってくれ」
俺の背中に手を置いて大男は何やらぶつぶつと不可解な呪文を呟いていた。そしてむんと声を唸らせると手に力を込めた。すると俺の背中がすっと軽くなっていくのを感じた。
「これで除霊は完了です。では支払いは後ほどお願いします」
「ああいいよじゃ俺はこれで」
大男に手を振って俺はとっとと雑居ビルを出た。
俺はビルを出てすぐに裏手に回った。少し待っていると俺が呼び出した背後霊が戻ってくる。
「よう首尾はどうだ?」
「バッチリだぜ旦那、あのインチキ霊媒師しこたま金貯め込んでやがった。金庫の番号も何もかんも、抑えられるもん全部抑えてきたぜ」
「よしよしよくやった。後はお前の道案内で悠々忍び込んで金を盗み出すだけだな」
俺には降霊術の才能があった。特に使い道がなくて困っていたが最近いい使い道を思いついた。世にはびこるインチキ霊能者にわざと背後霊の姿を見せて釣る、そして背後霊をあえてその霊能者に憑けて金の隠し場所を探らせるのだ。
どうせ人を騙して巻き上げた金だ、それに俺が本物の幽霊ってやつを見せてやってるのだから見物両代わりにちょいとばかし小遣い稼ぎしてもいいだろう。たちが悪いのは背後霊ではなく己の欲望だ。




