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短編小説  作者: ま行
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水晶と恋文

 机の引き出し下の段、小さな鍵付きの宝石箱に仕舞われているのは角柱の水晶に手紙が一枚。


 いつも首から下げている鍵を差し込み回す、丁寧に蓋を開け中身を取り出す。

 水晶は変わらず美しい、透き通った輝きは水を固めて止めた様だ。


 手紙は逆に痛んでいる、何度も読み返した年季という名の垢まみれ、いつだって郷愁に誘ってくれる。


 机の上に水晶を置き手紙に目を落とす、字の上達は年月にはあまり関係ないみたいだと自嘲する。




[僕は貴女に一目会ったその日から、恋に落ちた。


 図書室の大机の端に貴女はいつも決まった時間に座っていた。美しく本を読む貴方を見て目を奪われた。


 僕は話しかけることが出来ない社交性と勇気のない自分をこの時以上に恥じたことがない、綺麗な貴女に声をかけることは恥ずかしかったのだ。


 そんなとき貴女が読んでいた本に気が付いた。


 僕はその本が好きで何度も読んでいた、これだと思いきって貴女に話しかけた時に辺り一面綺麗な花が咲き暖かな日の光が心を照らした様に感じたんだ。


 貴女と仲良くなる時間は楽しくて仕方がなかった、それまでの世界を忘れてしまう程だった。


 美しいだけではない可憐で誰にでも優しく、朗らかで快活なのに本に感動して静かに大粒の涙を流す貴女にますます僕は夢中になった。


 僕は貴女が好きです。


 贈り物に選んだ宝石箱と水晶は、僕と貴女が好きなあの本に出てくる恋人への贈り物です。


 貴女が箱を開け手紙を読んでいると思うと胸が張り裂けそうです。貴女への気持ちが少しでも多く伝わればと祈りを込めて書いたので受け取ってくれたら嬉しいです。


 愛を込めて。]




 読み終えると椅子に体重を預け天井を見つめる。


「貴方から貰ったもので一番大切な物よ」


 そう笑いながら話して、いとおしく箱を撫でる君を思い出す。


 若くして旅立ってしまった君は、最期に自分の首飾りを外して僕にかけてくれた。


「いつでも開けられるように鍵を首飾りにしていたの、読み返すと元気と愛を貰えるから、貴方にあげるわ」


 君が居ない年月は寂しいことでいっぱいだった。


 初めて箱を開けた時を思い出す、きれいに磨かれた水晶と傷んだ手紙に加えて君からの贈り物のハンカチが入っていた。


[涙を拭いて前を向いて]


 ハンカチに挟まれたカードにはこの一言が添えられていた。


 いつの間にか天井が涙で滲んで見える、君は本当に僕の事を分かっている。


 プレゼントのハンカチで涙を拭う、贈り物のハンカチには君からのメッセージが刺繍で刻まれていた。


「愛を込めて」

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