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短編小説  作者: ま行
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嘘みたいな切っ掛け

 様式美というものがある、物語の始まりの切っ掛けとして好まれる展開などで考えると、転校生が昔離れ離れになった幼なじみであったり、捨て猫の如く弱り一人でいる美少女と出会ったり、普段何かを助けるなんてことした事もないのに誰かの為に危険に飛び込んだり、まあこんな感じで上げていけばキリがない。


 この様式美が悪いって訳じゃない、寧ろ話の導入としてこれ以上なく練り上げられているし、ぐっと人の気持ちを引き寄せる力がある。


 そう、何事も始まりは大事なのだ。でも殆どの人はそんな事には無関係だ、と言うよりフィクションだからこそ楽しめると言ってもいい、だって本当にそんな劇的な事に対面したとして自分が上手く立ち回れる訳がない。


 自分の限界を決めないってのは大事な事だ、俺だってまだまだやれるって信じているし、可能性が無限にあると知っていないと人生は何処までもつまらないものになってしまうだろう。


 だけど、それでも、身の丈ってものを何となく知ってしまうのも人間ってもんじゃないだろうか?手に余るって何となく分かってしまうものじゃないか?それでも切っ掛けってのは時に残酷に選択を強制してくると俺は知った。


 俺は今朝寝坊して学校に遅れそうだった。ここまではまあよくある。しかし普段なら朝食なんて無視して走っていく、だけど今日の朝食のパンに塗られていたのは餡バターだった。よりにもよって大好物だ。


 俺にはそれを無視は出来なかった。強引にそれを引っ掴んで俺は外に飛び出した。遅刻しそうになって食パンを咥えて走るなんて、すごくベタベタだと俺だって思った。


 そして驚くべき事に俺は通学路の曲がり角で美少女とぶつかった。ちょっとお得なハプニング付きで、出来すぎていると思う。


 ここまでなら完璧なラブコメの導入だ、でもここからが馬鹿げた与太話の始まりだった。


 俺が角でぶつかった美少女は、地球征服を目論む悪の秘密結社の女幹部だった。俺はその女に一目惚れされて、アジトへと連れていかれたと思ったら人体改造手術を受けさせられた。


 何の因果か俺はその改造手術にこれ以上ない程の適合率を見せた。他の幹部連中どころか、悪の秘密結社の親玉よりも強い力を手に入れてしまい、そのままなし崩し的に俺はトップに成り上がる事となった。


 遅刻すると急いで走っていて、曲がり角で美少女とぶつかって、ドッキリハプニングまで完備されていて、その結果世界征服を企む悪の組織のトップになるとは誰が予想できただろうか、いやこんな嘘みたいな切っ掛け誰にも予想できる筈がない。

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