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短編小説  作者: ま行
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不可解な缶

 この事件はどうにも不可解だ。


 ある宗教団体が集団自殺を図った。信者の中には生き残りはいない、皆御神体が置かれた大広間にて服毒自殺した。


 おびただしい数の死体の山、刑事として見慣れたはずだが絶望感が俺を襲った。老若男女別け隔てなく死んでいた。


 事件が判明した切っ掛けも妙だった。何と教団内部からの通報だった。


「私達は私達の神に身を捧げます」


 それだけ言って教団名と住所を告げると、そこから一切音沙汰が無かった。事件かどうかも分からず調査に入った所で発覚した。


 死亡推定時刻は通報があってからすぐだった。


 宗教というのは意思の統一がやりやすい、しかしそうは言っても自分の命に関わる決断をこれ程の人数が誰一人躊躇わなかったというのは変だ。


 恐怖心が心に宿る、それは生命にとって当たり前のことだ。本能だ。


 だというのにこの教団信者は全員死を捧げた。御神体として祭っていた空き缶にだ。


 この空き缶はどれだけ調べても何の変哲もないものだ。世の中に出回っているジュースの空き缶となんら変わりはなかった。


 空き缶から検出された物に怪しい所は何一つ無かった。それだけにますます分からなくなってしまう、一体信者達は空き缶に何を見ていたんだ。


 教団から違法な薬や怪しげな物は一切出なかった。洗脳や無理やりな教化の類いはあったと思うが、それにしたって方法がまったく見えてこないのが事実だ。


 空き缶は保管されている、厳重過ぎる程に警備までつけれた。


 そんな必要があるのか、我々の間でも意見が分かれた。しかし「何があるか分からない」という懸念が、纏わりつく不安が我々の行動を決定づけた。


 一体あの空き缶に何があるのか、警察内部でも様々な人が何度もその様子を伺いに来た。俺もその内の一人である。


 しかし、何度見た所でこの空き缶に何かを感じ取る事は出来ない。だが、この空き缶一つに大勢の命が捧げられた事は事実だ。


 何があると言うんだ。空き缶に一体何が。


 考えても分からない、今日廃棄するべきと意見を出してきた奴がいた。


 俺はそいつを撃ち殺した。俺の賛同者もそいつの遺体に向かって何度も銃弾を撃ち込んだ。


 当たり前だ。この空き缶に何があるのか判明もしていないのに、廃棄を申し出るなんてこいつはきっと悪魔の使いだ。


 俺達は空き缶を守る為に悪魔を炙り出し粛清を始めた。空き缶に一体なにがあるのか、それを突き止めなければ。

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