地獄
ふと気が付くと長い長い行列の末尾に立っていた。辺りを見回すと薄暗くて、細い断崖絶壁の上に人間がずらりと並んでいる。地の奥底では溶岩のような物が赤赤と煮えていて、ここが普通の場所ではないと感じさせる。
「あのすみません」
前方に並んでいる人に声をかける。
「はい、何ですか?」
「ここは何処で、何故並んでいるのでしょうか?」
聞かれた人は変な事を聞くなという顔をして答える。
「ここは地獄で、この行列は閻魔様の沙汰待ちの列ですよ」
「地獄!?じゃあ自分は死んだということですか!?」
「ここにいるということはそういう事でしょう」
それだけ言って前の人は顔を前に向けて列に並び直す。事態がのみ込めないまま、どうする事も出来ないのでそのまま列に並んだ。
列にはどんどんと人が並んで来る、さっきまで末端に居た筈なのにもう末尾の人は見えなくなった。こんなに多くの人が死んでいるのだなと、死んだ身ながら間抜に思っていると、列の前の方に物語の挿絵に出てくるような鬼が立っていた。
「すみませんちょっといいですか?」
思い切って声をかけてみる。
「どうした?何かあったか?」
意外な事に鬼の対応は紳士的だった。
「あの自分何故ここに居るのか分からないのですが、何か分かりますかね?」
「何だお前、自分が死んだことを覚えてないってのか?」
頷くと鬼は困った様子で首を捻る。
「うーん、どうにも見当もつかん。ちょっと待ってろ、いいな?」
鬼は慌てて何処かへとすっ飛んで行った。待てと言われれば待つしかない、列に並びながらぼんやりとしていると、先程の鬼が戻ってきた。
「まったく呆れた奴だお前は、閻魔様によるとお前はまだ死んでいないらしい。送り返せと申し付けられたから、今からお前を現世に送り返す事にする」
「はあでもどうやって?」
「痛い事はないから目を瞑って我慢していろ」
鬼は手に持った金棒を野球選手のバッターの様に構えると、頭目掛けて思い切り振り抜いた。
叫びながら起き上がると、助手達が驚いた顔で見つめていた。
「先生どうでしたか?」
「ああ、実験は成功だ。仮死薬は完璧に完成していたし、地獄の存在も確認できた。目的を達する事ができたぞ」
助手達は大喜びで万歳をしていた。仮死状態で地獄に行っていた博士もその輪に加わろうとしたが、ズボンのポケットに何か入っていた紙を広げて見て、落胆の声を上げた。
「どうしたんですか先生?」
「残念だが、もう仮死薬で地獄に行く事は叶わない」
博士が助手に紙を渡すと、それを見て助手達もがっくりと肩を落とした。
そこには「もう一度死ぬ前に地獄に来たら、問答無用で舌を引き抜く」と書かれていた。狂気じみた実験をする博士と助手達でも、流石に舌を抜かれるのは皆勘弁願いたいという事だった。




