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短編小説  作者: ま行
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熊と知恵比べ

 とある豚飼いは困り果てていた。それは自分の牧場の豚が熊に襲われて食べられてしまっているからだった。


 熊に対してまずできるだけの手段を取ったが、熊はそれをことごとく退けて躱し、悠々と豚を攫って行く、業を煮やした豚飼いは熊狩り名人と名高い猟師に熊の駆除を頼むも、その猟師でさえも熊は手玉に取って難を逃れつづけた。


「今日も駄目だったかい?」


 豚飼いが猟師に聞くと、黙って首を横に振った。


「まったく駄目だ、あいつはまるでこちらをすべて見透かすかのように、どの手段も巧妙に避けやがる。正直こんな賢い熊は初めてだ。俺には無理かもしれん」

「そんな、あんたが駄目だったら一体誰があいつに勝てるって言うんだ、このままじゃおまんまくいっぱぐれだ」

「しかし俺にもどうにもならん、あの熊は賢くて敵わん。俺もこの調子だと干上がっちまうよ」


 猟師はそう言って熊から手を引いてしまった。豚飼いは困り果てた。その熊に敵いそうな猟師はもう思いつかない、そしてその猟師が手を引いたと話が広がれば、もう熊に挑む猟師は現れなくなるだろう、万策尽きてしまった。


 それでもここで諦める訳にはいかない、豚をタダで熊に持って行かれて豚飼いもいい加減怒り心頭だった。手間暇かけて育てた豚を我が物顔で食らう熊をどうにかして懲らしめてやる方法はないものかと、豚飼いは知恵を振り絞った。そうして思いついた手はもうやけくそだった。




 豚飼いは放牧地で座して熊を待っていた。解体した豚肉を積んで熊を待つ、暫く熊はじっと見て警戒していたが、もう何度も成功している豚泥棒だ、人が居ても関係あるまいとのそのそと近づいていった。


「来たか」


 熊が来たのを見て豚飼いは熊を手招きする、熊は見慣れない行動に驚くが、取りあえず近づいて行った。


「熊よ、お前は賢く強い。俺を殺して豚を持って行く事など訳ないだろう、しかしどうだ?俺が居なくなれば豚はもう増えない、お前は賢いから分かるだろう」


 熊はぶふふんと鼻を鳴らした。


「だから俺は考えた。お前にもう豚を盗られないようにするにはどうすればいいかを、熊よ俺と勝負しろ。俺は将棋が得意だ、俺と豚を賭けて将棋勝負だ」


 熊の前に将棋盤を置く、駒を並べて熊と向き合う、熊はいきなりの出来事に戸惑い狼狽えている。


「どうした?お前は大層賢いと聞いているぞ、さあ知恵比べだ。さぞ賢い事だから駒の動かし方もすぐ覚える事だろう、教えてやるぞ熊よ」


 さあこうするんだと駒の動きを豚飼いは説明を始める、熊はもう突然の出来事に呆気に取られてただ座って聞いていた。




 猟師は気になって豚飼いの元を訪れた。


「やあ、あれからどうなった?」


 豚飼いは笑顔で答えた。


「あいつが賢い熊でよかったよ、将棋を教えてやったらメキメキ上達してな。今ではすっかり将棋友達だよ、あいつの得意戦法は穴熊だ」


 今日も来ているんだと指さした先に、熊が腕を組んで将棋盤とにらめっこしているのが見えて猟師はすっかり驚いてしまった。

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