盃
男と男が一つの部屋に集まり膝を突き合わせる、互いをよく知る男たちは多くの言葉で語らない、視線やしぐさ、短い言葉で互いの呼吸を図る。
「久しぶりだなあ」
「ああ、そうだな」
会話はここで途切れる、お互い伏し目がちであるが表情は手に取るように分かる。張り詰めた空気も、しんと静まり返る室内も、二人にとって何の問題もない事だ。
「要件は分かっているな」
「勿論、ここに来たのもその為だ」
時間が進むにつれて男たちの間にはただならぬ気配を漂わせ始める。凶悪な強面を上げて鋭い眼光を交わす。にらみ合いの緊張感はその場に他の者がいれば卒倒してしまう程であった。
男の一人が徐に盃に酒を注ぐ、注がれた方もお返しに空いている盃に酒を注ぎ返す。そこに言葉はなく、ただ呼吸をするのと同じことの様に自然と行われた。
「これで何度目だったかな」
「さあね、もう数えるのも止めたよ」
二人は繰り返し行われてきた会合に臨み続けてもう何年も経つ、その度に殺気を漂わせ、互いの命を削りあってきた。
「そろそろやろうか」
「俺はいつでもいいぜ」
スッと立ち上がって構える、そしてお互いが同時に大声を発してそれは始まった。
「「じゃんけんぽん!!」」
いつからか数か月に一度集まってじゃんけんをする事が二人の恒例行事として定着した。その勝敗で特に何かある訳ではない、ただじゃんけんをするだけの集まり、それでも二人は勝てば大喜びし、負ければ本気で悔しがった。そして会の終わりには盃を交わし合ってお互いの健闘称えて、同時にまた会おうと約束して楽しそうに去っていくのであった。




