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短編小説  作者: ま行
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ラブアンドピース

 女は世界平和を夢見ていた。誰もが隣人を愛し、誰もが他人に手を差し伸べる、そんな理想を抱いていた。それは周りの人間からしてみれば陳腐な祈りだったが、女は本気で世界平和を夢に見ていた。


 その為の行動も行った。演説を重ね、慈善活動をし、力の限り発想の限りを尽くして平和の為に行動した。そのうちに女の周りには志を共にする仲間が集まり始めた。女の思想に共感し、その献身的な行動を称えて、自らもその意思を体現せんと女を中心にして人が集まった。


 世界平和の御旗を掲げて、集った仲間とその理想を体現する。女はそれがとても誇らしかった。自分の理想に一歩ずつ近づいている、そう確信させる程に女は集まった同志達と活動を続けた。


 しかし、その集団にとって平和は長く続かなかった。膨れ上がった組織の中から不和が生じた。とても些細な切っ掛けだった。女はそれを仲裁したが、そこから派閥割れが起きた。同じ意思で集まった仲間達だったが、次第に別派閥といがみ合うようになってきた。そして大きな派閥からまた小さな派閥に分かれるようになって、そこでも小さな諍いが生じるようになった。


 女は頭を悩ませた。平和を願って活動していた筈なのにいつの間にか各派閥間の調整役になっている、あちらを立てればこちらが立たず、どちらかに肩入れをすれば贔屓目に不満が募る、愛と平和を願って集まった組織は一番愛と平和とは程遠い組織になっていた。


 女は静かにその組織から去って行った。頭目を失った組織は脆い、あっという間に瓦解して組織は跡形もなく無くなった。大半の人間は去り、残った少人数が先細りしていく活動を細々と続けていくだけになった。女はその事に心痛めたが、目的を見失ってはいけないと、また一人で世界平和の為の活動を始めた。だけど彼女の周りにはまた人が集まってきた。その献身的な愛と平和活動はどうしたって人を引き付けた。そうしてまた身動きが取れなくなっていく女は、とうとう自らの手で愛と平和を打ち壊した。女はすべてを捨てて、俗世から離れて山にこもった。誰とも関わらず自然と動物に囲まれて、便利な物は一つも無くて、苦労ばかりの生活を強いられたが、愛と平和だけはそこにはあった。


 女が居なくなって、愛と平和を望む者たちは嘆いた。しかしそれも長くは続かずにいつしか人々はその女の存在も忘れて日常は流れて行った。

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