昇降口
「ああもう急がないといけないのに、ついていないなあ」
ビルのエレベーターの故障中という看板を見て、男は苛立ちを隠せず呟いた。上の階に用事があるというのに、そういう時に限って運が悪い、辺りを見回して昇降口を見つける。上るとなれば鬱々とするが、上がらなければ仕方がない。覚悟を決めて階段に向かって歩き始めた。
「ひぃひぃはぁはぁ」
上り始めてすぐに、自分でも驚くほどに息が上がっているのが分かる。まだまだ若いと思っていても、体はそうでもないと警鐘を鳴らしているのかも知れない、これを機に軽くトレーニングでも始めようかと思い始めていた。
「やあどうも、大変だねぇ」
ビルの清掃員が階段の掃除をしている途中で、男に気が付いて声をかけてくる。
「本当ですよ、まさかエレベーターが故障しているなんて知りませんでした」
「ちょっと前からねぇ故障していてねぇ、我々も大変ですよ」
お疲れ様ですと声をかけて、男はまた階段を上り始める。最上階まではまだまだある。時計を確認しながら、体に鞭打って必死になって歩みを進める。
「間に合わなかったら大変だぞ、大目玉じゃ済まないだろう、上れ上れ」
男は独り言で自分を鼓舞しながら上り続けた。ようやく最上階までたどり着いて、目的を達する事が出来た。
「やあ、間に合って本当に良かった。脅しがきいてお金が手に入ったってのに、時限爆弾を解除するのに間に合わなかったら大変な事だ。しかし人間やれば出来るものだ、間に合わなかったら上ってきた階段が、そのままあの世への階段に変わる事になっていた」
男は疲れて震える足を落ち着けて、さあ戻るかと思った時に気が付いた。今度はこの高さから降りてかなければいけないのだ。今度計画を立てる時には、ビルのメンテナンスが行き届いているかのリサーチも怠ってはならないと、心の中で毒突きながら階段を下り始めるのだった。




