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短編小説  作者: ま行
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箪笥

 少年は夏休みを利用して祖母の家へと来ていた。祖母の家は古いが広く、叔父夫婦が同居している。年の近い親戚の子がいて、遊び相手にも遊び場所にも困ることはない、少年は祖母によく懐いていた。


「おばあちゃんまた遊びを教えてよ」

「いいよ、じゃあおはじきでも教えてあげようか」


 祖母の周りには少年だけでなく、親戚の子供も近所の子供達もよく集まった。面倒見がいい人で、古い遊びでも子供達を飽きさせずに伝える事のできるユーモアも持ち合わせていた。


 少年は祖母が箪笥の前に座って、何かを懐かしそうに眺めているところを見かけた。声をかけると祖母はさっと箪笥を閉まった。


「おばあちゃんこの箪笥すごく古いね」

「ええ、私がこの家に来た時に持ってきたものよ」


 少年にその年月を想像する事は難しい事だったが、とても長い間壊れずに使い続けていると思ったら、とてもすごい事だと思った。


「おばあちゃんの大切なもの?」

「そうね、でも外側はそんなに重要でもないわ」


 祖母の答えが意外なもので、少年は聞いた。


「何で?ずっと使い続けてるんでしょう?」

「まあ頑丈で重宝してはいるけど、大切なのはここに仕舞われたものよ」

「中身が大事って事?」

「まあ、いい事言うわね!そんな賢い子にはスイカを切ってあげましょうか」


 少年はすっかり喜んで祖母について行った。そうして箪笥が気になっていたことを忘れて、年月が経ち少年は大人になった。


 祖母の家に親戚が、皆集まった。祖母は穏やかに息を引き取って、天寿を全うした。集まった皆口々に祖母の思い出話を口にして、ある人は泣き、ある人は笑って、故人を偲んだ。


 大人になった少年は、幼い日の思い出を懐かしみ、祖母の箪笥の前まで来た。あの時開けられなかった箪笥の中身には、一体何が詰まっているのだろうか、少しの不安とそれ以上の好奇心で箪笥を開けて中身を見る。


 詰まっていたのは、写真だった。


 若き日の祖父と祖母の結婚写真や、皆でいった旅行先での写真、親族の集まりを写したもの。様々な思い出が詰まっていた。中でも多かったのは遊んでいる子供達の写真だった。そしてその傍には、子供達との遊びに使った玩具や、子供達が祖母に渡した木の枝や、丸い石、折り紙等がたくさんあった。


 幼き日の自分と祖母が写った写真を見つけて手に取る。裏を見ると、祖母から短いメッセージが書かれていた。


「どう?私の宝物は?貴方の言う通り中身が大事ね」

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