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短編小説  作者: ま行
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楽園

 笛の音が響く、そよぐ風が木の葉を揺らす。柔らかな日差しに鳥のさえずり、花は咲き誇り楽しげに踊る。萌ゆる緑は眩くて、広がる青空はどこまでも美しい。


 ここは楽園。汚される事無き秘めたる場所。


 笛を吹く女は彼方の山々を眺める。連なる稜線は絵画のように滑らかで、目で追うようになぞると気分がいい。女が奏でる笛の音は曲を鳴らさない、ただただ美しい音をシャボン玉のように飛ばして遊ぶ。そこに意味はなく、理由もない、すべてが無駄なようで、何もかもが完璧であった。


 女は草原に身を横たえる。手も足も投げ出して身を預ける。目一杯空気を吸い込めば、青く爽やかな草や土の匂いが鼻腔をくすぐる。瞳を閉じて音を聞く、自然を流れる音は実に多様で、聞いても聞いても終わることがない。


 そのまま眠りについてしまう、目を覚ますと眼前には満天の星が広がっていた。


 輝く星々は心を奪う、そのまま眺めていると星がいくつも行き交うのが見えた。一つ、また一つと夜空を彩る光の筋は、神秘的で心高鳴る。


 女は立ち上がって両手を空へ伸ばす。全身くまなく伸びあがって指先までぷるぷると震わせる。今度は手を下ろし胸を大きく開く、ぐぐっと力を込めて一気に脱力すれば、体が驚くほどに軽くなる。まるでこの大自然に溶けてしまったように力が抜けて心地よい。


 この楽園と一つになって、このまま溶けて消えてしまおうか。女はそんな事を考えながらまた目を閉じた。




「いかがでした?このリラクゼーションマシン。日々の疲れのすべてが吹き飛ぶようにリラックスできたでしょう?」

「買います!」


 女は即決即金でリラクゼーションマシン『楽園』を購入した。ストレスフルな現実に楽園がないのならば、買ってしまえばいい、いい時代になったものだ。


 しかし消して安い買い物ではなかった。金額に少しばかり憂欝になるが、この楽園さえあれば何てことはない、こうして女はストレスフルな現実世界へと戻っていくのであった。

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