虹をかけるロボット
完成したロボットを前に博士は悦に入る。それは自分でも見事なほどよくできていて、生涯このロボット以上の物は作れないだろうと確信したほどだ。
博士が作ったロボットの役目は虹をかける事ただ一つ、ロボットは思い付くまま気のままに虹をかける。この世の法則など関係ない、ペンキで塗りたくったような虹も、薄く淡い光の虹も、どんな虹も思いのままにかける事ができる。
ロボットは備え付けられた人工知能で、人々の想像力をかき集めて虹をかける。博士は綺麗な虹が様々に見ることができれば、きっと世の中は良くなると信じた。そうして博士はその人生を閉じた。
行動を開始したロボットはそれは見事な虹をあちこちへかけ始めた。それは子供の落書きのようで、ある時は宝石の煌めきのようで、人々は突如現れた虹に最初こそ戸惑うものの、その美しさに心奪われる者が多かった。
しかし、博士の思い通りに事は進まなかった。
誰かが言った。
「あの虹は敵国の攻撃だ」
「見ろ洗脳する気だ」
「あれは宣戦布告だ」
「虹はあの人の元へ集えとの旗印だ」
次第に声は大きく集まっていく、始まりこそ小さな声が尾ひれ背びれと規模をでかくする。ついにはどこの誰とも分からぬ、人かも定かではない何かを切っ掛けに争いが始まった。
博士の作ったロボットは、人々の夢と希望を集めて心に虹をかけた。だが、今やその虹に色は一つしかない、空には毎日血の色に似た赤黒い虹が、空を赤く染め上げていた。