絆
四人と犬一匹が並び立ち、今まさにドラゴンに挑まんとしていた。
四人と一匹は家族だった、父母姉弟と柴犬のクロは家族揃って異世界へと転移してきた。
「親父腰が引けてるぞ」
弟アカヒコは父キタロウの背中を叩いて言った。
「あんたも弓持ってる手が震えてるわよ」
姉アオイが手にした杖でアカヒコの頭を軽く小突く。
「お父さん今日はちょっとやめとこうかな?どう思う皆?」
キタロウの腰は今だ引けている。
「馬鹿言ってんじゃないよ!あんたたちも気合い入れ直しなさい、クロはもう準備できてるわよ!」
母ミドリが指差したクロは、姿勢を低くして小さく唸り声を出している「いつでも行けるぜ」と目でキタロウに訴える。
キタロウは覚悟を決めて家族一人一人の顔を見ると、緊張感と恐怖心を唾と共に飲み込んで言った。
「俺たちは家族だ、皆の事が大好きで皆の事を誰よりも知っているのは俺たちだけだ、それぞれの短所を全員でカバーし合え、誰かが倒れたら皆で手を取って引っ張り上げるんだ、いいな?」
キタロウは身の丈より大きな剣を握り直して正眼に構える、その凛とした姿を見て一同はそれぞれの武器を構える。
「アカヒコ、奴はまだこっちが見えていないから矢を放って牽制しろ、クロと俺で斬りかかって注意を引く、アオイは合図があればいつでも魔法が撃てるように準備しておけ、母さんは誘い出すポイントに罠の設置を頼む」
家族は大きく深く息を合わせると、一斉に行動を開始した。
一色家の戦いの火蓋が切られる、元の世界へ戻るため、戦う家族の未来はまだ誰もその先を知らない。