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短編小説  作者: ま行


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激痛

 ロボットは生みの親である博士に直訴した。


「的場博士、私に痛覚センサーを追加できませんか?」


 博士はロボットの進言に驚き目を数回瞬かせた。


「そりゃお前追加することはできるが、一体それが何の役に立つんだ?」


 ロボットは家事手伝い用に作り出された。


 博士には身寄りがない、放っておけば研究開発ばかりしていて、およそ人間らしい生活を送ってこなかった。


 そんな生活に嫌気がさし、その時思い付いた技術を詰め込んだのが家事全般お手伝い複合機OT-2Dだった。


「役に立つかは私では判断できません、追加できることの確認と追加してほしいという要望です」


 博士は困った、AIから何から全部自分で作ったロボットだ、所々門外漢な部分は持ち前の知恵とセンスで完成させた。


 今まで家事は完璧にこなし、博士の命令の機微にもそつなく応える柔軟性をもつ、学習する文句のつけようがないロボットだった。


「まあ追加してやってもいいが、何で追加してほしくなったのか教えてくれないか?」


 博士にはロボットがそんなことを言い出す理由が思い付かなかった。


「私は無機物で出来ています、博士の技術力のお陰で姿かたちや動作に至るまで人間と謙遜ありませんが、その実どこまでも精巧な作り物です」


 そう言うロボットの雰囲気はどこか悲しげに見える。


「作り物であることは変えられないので、感情を知りたいと考えました、とりわけ痛覚を知りたい、痛みをデータではなく感じてみたいのです」


 ロボットの声は合成音声だが、その音には熱がこもっているように感じてとれた。


「そこまで言うなら分かった、だが痛みで動きが大きく制限されてしまうかも知れない、そしたら俺の判断で外すぞいいな?」

「勿論構いません、ありがとうございます博士」


 ロボットは頭を深々と下げて自分の仕事へ戻っていく、博士は理解は出来なかったが要望には応えて見せようとさっそく作業に取りかかった。




「おはよう、気分はどうだ?」


 ロボットは機能追加のスリープモードから目を覚ました。


 システムが立ち上がり駆動系が唸りエラーチェックで問題なしと判断されると、いつも通り起立してみせた。


「何も問題ないと思われます、ですが」

「どうした?不具合か?」

「いえ、システム正常、各機関計器チェック問題なし、ですが数値化できない違和感があります」


 博士は何か設計ミスがあったのかも知れないと考え込んでしまった、ロボットはその間に手足を動かして動作確認をしようとした。


「あっ」


 違和感のせいか足を動かした時に、バランスを崩し転びそうになった。


「危ない!」


 博士は咄嗟にロボットの手を握りしめて体を支えた。


 その時ロボットの感覚と感情の電気信号が走り、AIを強く刺激した、初めて知り感じる握りしめられた手の痛み、博士の体温や焦る表情、感じ取ったそれらの情報はロボットのなかで小さな心の欠片となった。


「おい!大丈夫か!?」


 ロボットが目をパチパチとさせ動かなくなったので、博士は声をかけた。


「大丈夫です、博士ありがとうございます」


 ロボットはようやく我に帰った、姿勢を正して支えられた手をほどく。


「博士、痛みが何の役に立つか分からないと仰られましたね」

「うん?確かに言ったな」

「これから私はもっともっと博士のお役に立ちますから見ていてください」


 それからと言うものロボットの仕事は完璧になった。


 これまでの仕事以上の出来で、さらに素早く正確になり、博士の思い付きにも難なく対応する、痒いところに手が行き届く仕事ぶりをみせた。


 その対価なのか、ロボットは博士に機能の追加をより多く求めるようになった、一見役に立たなく思える仕様追加でも、ロボットはその度にどんどんアップグレードしていった。


 博士には分からない事だらけになったが、殊更に分からないのはロボットがよく笑うようになった事だ、そんな機能を追加したことは無かった。


「博士ご飯ができましたよ」


 ロボットの呼ぶ声に博士は研究机から離れた、彼は今ロボットの感情について研究をしており、ロボットはその手伝いを「お任せくださいお役にたちますよ」と胸を張り笑顔で応えるのであった。

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