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短編小説  作者: ま行
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要石

 喧嘩というのは突然に始まるもの、仲が深かろうと浅かろうと起こるときは起こるもの、或いは仲が深まるほどに喧嘩の種は多く蒔かれて芽吹くときを今かと待ち兼ねている事もある。


 そんな時に二人の間には、妥協点を持ち合い共有し、合格点でなく及第点を見つける事が仲を保つコツではあると考える。


「俺のプリン食っただろう」


 つまるところ私は今ピンチである。


「ど、どうだったかなぁ」


 苦し紛れを口ごもるも、彼の険しい顔は一つも緩まない、やけに美味しいプリンだったからさぞや高価な物であったのだろう。


「正直に!」

「はい!食べましたごめんなさい!」


 彼の大きな声に勢いよく頭を下げて謝罪する、しかしまだ険しい顔をしている。


「この前もやったよな」


 こうした小さな不満が積み重なってやがて大きな諍いとなるんだなと、何故か冷静にそんな事を考えていた。


「申し訳ありません、深く反省しております、どうすれば許していただけるでしょうか?」

「今考えてるから待て」


 ヤバい、声のトーンが怒っている。


 また同じものを買ってきて済む話ではなく、私がまた同じことをやったことに怒っているのだ、口では反省していると言いながら実が伴わなければそれは怒

 る。


「取り敢えずちょっと頭冷やす為にも外に出てくる」


 彼はそれだけ言うと、上着を着て部屋から出ていってしまった。


 私はたまにこうしてやらかしてしまう、ポカミスを無くすために見直せる所は見直しているつもりでも、どこかで見落としてしまうのだ。


 深くため息をついて気持ちを切り替える、彼のためにパンケーキを焼こう、手を動かせば沈む気分も少しは紛れる。


 材料を用意しエプロンを着て三角巾を頭に巻く、お菓子作りに使うために買った生クリームも作ろう、ハチミツをかけて生クリームを添えてチョコスプレーをまぶす、イメージを固めて作業に入る。


 生地を混ぜながら彼との出会いを思い出す、お菓子作りが好きな私と彼はお菓子作りのワークショップで出会い、似たような趣味嗜好から会話が弾み仲良くなり交際に至った。


 そういえば付き合って間もない頃は、一緒にお菓子作りをしていたけど、最近は私が作って満足してしまっていた。


 彼も私が作ったお菓子を食べるだけで、あまり私とお菓子作りをしてくれなくなった、こうして一人でキッチンに立つことも多くなったのに今気がついた。


 このパンケーキで仲直りできるとは思わない、だけどもう一度彼を一緒にお菓子を作ろうと誘ってみよう、付き合いたての新鮮な気持ちを思い出せば仲直りの切っ掛けを掴めるかもしれない、都合のよすぎる考えだが何もせずに関係が冷えきってしまうよりずっといい。


 出来上がったので連絡をいれようかとスマホを手に取った時に彼が帰ってきた。


「お帰りなさい、パンケーキ焼いたんだけど食べない?」

「ただいま、食べたいな玄関先で甘い香りがしたよ」


 彼の手にはお菓子屋の箱があった。


「それは?」

「ああ、あのプリン買ってきたんだ、俺があらかじめ二個買って一緒に食べればよかったのに、君を責めるばかりでごめんね」


 私は首を横に振った。


「そんなことない、私が何度も注意されたのに確認を怠ったから、ごめんなさい」

「プリンとパンケーキ食べようよ、美味しそうな匂いで腹ペコだ」

「そうしましょう、ねえまた一緒にお菓子作りもしない?きっと楽しいよ」

「いいね!俺の腕は衰えてないかな?」


 私たちはお互いの顔を見て笑い合う、爆発しそうだった怒りもいつの間にか鎮まった、私たちの要石は甘い甘い絆の思い出。

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