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短編小説  作者: ま行
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丁度いい

 この飼い犬はもう老齢だ。


 眠りの時間は長くなったし、飛び回る動きは長く続かない、ペロリと平らげていたご飯も食いが悪い日がある。


 それでも犬は老いを感じない、時の流れは体から命を吸い続けるが、同時に沢山の思い出をくれる。


 犬の飼い主は共に成長してきた、遊んで喧嘩して一緒に泥だらけになったときは一緒に怒られた。


 大好きな家族と過ごす時間の幸せな記憶は、昼の陽気に微睡む犬に安らぎを与えた。


 窓際の専用のペットベッドには、子犬の頃与えられてからずっと使い続けている毛布がある、飼い犬はお気に入りの窓際にあるベッドと毛布にくるまり、日を浴びる事が大好きだ、ペットベッドは成長に合わせて何度か買い替えたが、ぼろぼろにほつれたり汚れた毛布だけはいつも傍にある。


 飼い主が帰宅する気配を犬は敏感に察知する、少し重くなった体も玄関に駆けつけるときには軽やかだ。


「マルただいま」


 マルとは飼い主がつけた名前、出会ったとき丸くて可愛らしい姿から名付けられた、マルは名前を呼ばれると嬉しくて仕方がなかった。


「ちょっと待っててね」


 飼い主が制服を着替える間に、散歩が楽しみで仕方ないマルは利口にもリードを咥えて玄関で待っている。


「マルは偉いね」


 飼い主はリードを受け取りマルに着けると、一緒に玄関を出た。


 散歩コースは決まった道だ、それでもマルは飼い主との散歩は毎回新鮮な気持ちだった。


 どれだけ年月を重ねても、見慣れた景色も共に感じれば心はいつも踊り出した、お気に入りの場所に訪れ、匂いを嗅いだり風が吹くだけでも楽しかった。


 しかし体は昔のように万全とはいかない、疲れて歩みが遅くなると飼い主はそれに気がついて休憩しようと声をかけた。


 二人で座って空を眺めると日は落ちかけて夕焼けしている、犬であるマルにはそれが何かは分からない、だけど並んで眺める空が好きだった、一緒に居られればそれが何よりも大事に思えた。


 散歩を終えて家に帰る、疲れからマルは晩御飯を食べると眠くなった、飼い主が座っているソファーへ上がると体を預けて眠りについた。


 優しく撫でる手、毛をすく指、暖かな体温は安らぎそのものであった。マルはここが丁度いいと思った、この場所この時間が丁度いい、飼い主がくれる優しさが丁度いい。

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