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短編小説  作者: ま行
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予想

 予想通りの事が起きれば誰だって少し嬉しくなる。


 何だか自分が優秀に感じられるし万能感を得られる、それがちょっとしたことでも大きい効果があるから僕は予想が好きだ。


 教室内は実に観察しがいがある、前の席の彼は僕の予想ではそろそろお腹が鳴る。


「ギャハハお前腹の音鳴ったぞ」

「いっつもこの時間帯に鳴るんだよなぁ」


 ほら見たことか、後方の席に座る僕は何度も腹の音を聞いている、朝食の時間帯等がずれない限り大体決まった通り鳴るのだ、彼は規則正しい生活を心がけているのかも知れないな。


 次の授業は国語だ、今日の時間割りでこの国語の先生ならおそらく少しだけ授業に遅れてくる。


「すまんすまん、ちょっと待たせたな」


 先生は急ぎ足で教室に入ってきた、やっぱりなと小さくにやつく、この時間割りの時だけこの先生は少しだけ遅れる事がある、いつもではないが今日は予想が当たったようだ。


 次の授業は別の教室に移動する必要がある、おそらく最初に教室を出るのはあいつだろう。


 ガラガラッと無駄に大きい音を出してヤンチャな人が出ていった、僕はまた予想が当たったので嬉しくなった。


 先に出た彼は真面目に教室に移動するのではなく、別のクラスの彼女に会いに行くためだ、丁度移動する用事が重なるタイミングを利用して、人目のつかない廊下で抱き合ってキスしている場面をこの前偶然見かけた。


 それから観察を続けると、やはり移動が重なる時にだけ我先にと出ていく姿が確認できたので、彼の行動予想は簡単だ。


 しかし羨ましいな、学校でそんな事をしているのは褒められた事ではない、先生に見つかればただでは済まないだろうし大事になるかも知れない、それでも危険を押してまで触れあいたいと思える熱い気持ちは想像もつかない。


「宗田くん、どうしたの?」


 ハッとして顔を上げると、同じクラスの田島さんが声をかけてくれたようだ。


「いやちょっと考え事してて、ぼーっとしちゃったみたいです」


 田島さんはクラスの人気者で、美人で明るくみんなの憧れの人だ、話しかけられたことに動揺して急いで立ち上がったときに筆入れを落としてしまった。


「あっ大丈夫?」


 田島さんは慌てる僕と一緒にぶちまけた中身を拾ってくれた。


「ありがとう田島さん」


 お礼を述べて拾ってくれた物を受け取る、こういった親切がサッとできるから人気者なのだろうか。


「どんなこと考えてたの?」

「え?あの田島さんは親切だなって」

「ふふっありがとう」


 何言ってるんだ僕は、変なやつだと思われてしまう。


「宗田くんたまにじーっと人の事見てるよね」

「え!?」


 ヤバい、僕の密かな趣味がバレたのか、それか態度に出てキモがられているのか。


「移動しなきゃ!田島さんも遅れないようにね!」


 僕は強引にごまかしてこの場だけでも乗りきろうとした。


「待って、一緒に行こ」


 まさかまさかの一緒に移動するはめになる、緊張で体がガチガチに固まる。


「宗田くん、私が何で教室に残ってたか分かる?」

「え?そう言えばどうして?」


 僕が声をかけられた時には皆移動していたのか、教室には田島さんしか残っていなかった。


「何ででしょうか、予想してみてください」


 彼女はいたずらに笑い鼻唄を歌っている。


「忘れ物して戻ってきたとか?」

「違いまーす、時間切れは教室につくまで!」


 もうすぐじゃないか、急いで考える。


「先生や友達に頼まれたとか、別の用事をしてたら遅れたとか、居眠りしてたら起こしてもらえなかった!」


 思い付く限りの事を上げてみるが、田島さんは首を横に振った。


「残念時間切れです」

「予想するのは結構得意だったんだけどな、ちなみに正解は教えてもらえる?」


 田島さんはにっこり笑うと答えを教えてくれた。


「正解は、私が宗田くんと話したかったからでした!」


 僕の手にメモ用紙を握らせると田島さんは先に教室に入った、畳まれたその紙を広げると、連絡先が記されている。


 予想だにしない彼女の行動に胸がドキドキし、僕のちっぽけな行動予想では得られないような多幸感を味わうのであった。

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