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短編小説  作者: ま行
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給料泥棒

 ブーツをかつかつと鳴らし階段を上がり、かっちりした制服を整然と着こなし階級章は大佐を表している、威厳のある顔は険しく鋭い目付きで壇上から兵士たちを睨み付けた。


「皆聞け」


 兵士たちに緊張が走る。


「今月もこの日がやってきた、勤労の対価を与えられる特別で重要な日である」

「しかし我々にとっては意味合いが異なる日でもある、我々に給料は与えられない、我々には評価も恩賞も与えられることはない」


 大佐は水を一口含み喉をならす。


「今日のために訓練を続けてきた皆ご苦労、しかしどれだけ練度を高めたところで本番に失敗してしまえばまるで意味をなさない、苦労は水泡に帰す」

「この日が終われば我々はまた訓練に戻る、一月が経つまで無給で身を粉にせねばならない、ならばどうする」


 指を指された兵士は答える。


「抜かりなく訓練通り遂行することです!」

「その通りである、訓練はこの日この時の為にある!皆の顔つきを一目見れば分かる、何処に出しても恥ずかしくない立派な兵士である!」

「それぞれ万事抜かりなくこなせ、ミスを皆でカバーしろ、時に支え時に引き上げろ、互いに目を配り合い補う事を忘れるな」

「はい!」


 ぴしゃりと言い放たれた言葉に兵士たちも大声で応える。


「よろしい!では作戦開始を宣言する!給料泥棒ここにありと人々に知らしめるのだ!」


 もう一度大声で応えると、兵士たちは速やかに持ち場に戻る、大佐も本部へと戻り作戦成功を願った。




 その日サラリーマンは浮かれていた。


 今月は成績優秀だったので給料に色をつけて貰っていたのだ、何に使おうか幸せな悩みで頭は一杯であった。


 突然、背後から何かに襲われた、顔は覆面で隠れて何者かは分からない、口に刺激臭のする布のような物を当てられて、あっという間に意識を失った。


 目を覚ました時には今月分の給料が通帳から消えて「給料泥棒参上」と書かれたカードだけが置かれていた。


 神出鬼没正体不明の怪盗団「給料泥棒」にやられたのだと分かり、すぐに警察へ通報する。


 一通りの事を聞かれてから科学薬品を使われた可能性も含めて、病院で検査する事になり、救急車に乗り込んだ。


 救急車の中で同乗した警察官の話によると、その怪盗団は一ヶ月に一度だけ現れ、全国各地でその月の給料だけを盗み出すそうだ、銀行口座へのハッキングやネット工作にも長けていて、組織だっていて素早く、全貌は殆ど分からないと言う。


 ニュースやワイドショーで時たま見たことがあっただけの怪盗団の被害に合うとは信じられなかった、奪われた給料が彼らの懐に入ったかと思うと怒りで震えた。


 悔しさに泣いていると警察官はポンポンと肩を叩いて慰めてくれた、涙でよく分からなかったがその警察官の口元がニヤリと歪んだように見えたが気のせいだろうか。

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