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短編小説  作者: ま行
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カタログ

「これはどうかな?」

「こっちもよくない?」

「ただ少し大きくないか?」

「言われてみれば確かに...」


 ソファーに二人座って夫婦はカタログを覗いていた。


 こちらがいいあちらが言いと言い合っていると、ヒートアップして口喧嘩になることもあるが、二人ともこの時間を悪くは思わなかった。


「いいね、結構決まってきた」

「何だかんだ言って選ぶものが似かようものね」


 フフと妻が笑うと、夫もつられて笑った。


「僕と君の相性が良いって事じゃあないかな?」

「喧嘩するほど仲がいいって言うものね」


 妻がコーヒーを入れてくるとキッチンに向かう、一息つきたいタイミングも一緒に暮らしていくうちに似てくるらしい、テレビをつけて番組を眺めていると、偉そうな肩書きコメンテーターが人権や倫理について討論している。


 最近見かけたニュースやワイドショーでも同じことで激論が交わされていたが、よく知りもしない人達が画面上で熱く語り合う姿は滑稽に感じていた。


「クッキーを頂いたの、コーヒーと一緒にどうかしら?」


 キッチンから妻が戻ってきたので、テレビを消してコーヒーを受けとる、皿に盛り付けられたクッキーは妻の友達の手作りだ。


「このクッキーうまいな、甘さが丁度いい」

「彼女お菓子作りが上手なの、私今度教えてもらうのよ」

「いいね!僕も食べるのは手伝うよ!」

「調子いいことばっかり、作るところから手伝っていいのよ?」


 こうして軽口を言い合う関係性は付き合っていた頃を思わせる、楽しい記憶はこうして人と確認し合うとより良い思い出に変わっていくのだ、二人は話し合う作業で家族になっていく。


「これを飲み終わったらそろそろ決めようか?」

「そうね、もう決めてもいいと思う」


 じゃあそうしようと夫はカタログから注文用紙を切り取り、長々とした項目の記入を始めた。


 頭の良さや身体能力、大まかな性格や仕草の癖、病気への耐性に頑丈な体、顔のパーツや髪の毛の色まで、二人で話し合って決めた通りに注文を終えた。


「この子が私たちの赤ちゃんになるのね」

「二人の子供だ精一杯育てような」


 幸せそうに肩を抱きこれからの生活に思いを馳せる二人は幸福の絶頂にいた。




 人間を好きなように作り替えて産み出す技術が大問題になっていた。


 その危険性を訴え止めさせたい者も、技術を推進させたかった賛成した者も、もうこの流れを止められる事ができない、真剣に人々を憂い行われる議論も研究も、人間の欲深く愚かな願望には泡と消えた。


 法律も刑罰も規制も何もかもが役に立たず、人類は滅び去る運命を受け入れるしかないのだ。

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