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短編小説  作者: ま行


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迷宮入り

「やきみそ…、やきみそって書いてあるよな?」


 殺人事件の現場、被害者が残したと思われるメッセージ、現場にいた全員が首を傾げて見ていた。


 やきみそ、と書いてある。どうしてそんなメッセージを残したのか、一見しただけでは、何も分からない。それどころか、混乱しか残さないメッセージだった。


「やきみそって、あの焼き味噌ですかね?居酒屋とかで出てくる」

「そう、だよな?」

「いやいやいや、今わの際だぞ、これ書く力があって、どうして焼き味噌なんて単語が出てくるんだ?」


 だよなあ、と、全員で声が合う。考えることは一緒だった。自分を殺した相手の手がかりを残せるという、絶好の機会に、食べ物の名前を残すだろうか。


「では何か、書き間違えたとか?」

「やきみそですよ?」

「人の名前…、の書き損じとは思えないよな」

「人名ではなくとも、何かの手がかりですよね?」

「その可能性は高いが、しかしなあ…」


 やはり気にかかるのは、四文字も書き記す時間と体力を残しておいて、焼き味噌と書く理由だった。


 それしか書けなかったのか、犯人に消されないようにするためだったのか、知恵を絞った結果がこれだったのか、どうにも疑問だけが残るメッセージだ。


 とにかくこの「やきみそ」という単語も参考にして、捜査が行われた。様々な可能性を考慮し、証拠を集め、とうとう犯人は突き止められて逮捕がなされた。


 しかし、犯人逮捕という手柄を上げたのに、捜査に関わった人々の表情は晴れなかった。結局、犯人でさえも、この「やきみそ」というダイイングメッセージに心当たりがなかったのだ。


 この不可解なメッセージが残された理由を知る機会は、もう誰にもない。その他すべての謎が解けたというのに、このダイイングメッセージの謎だけが残されてしまった。


 事件は解決したが、ダイイングメッセージの謎は迷宮入り、何ともすっきりとしない、様々な人に疑問だけを植え付け、やきもきさせる結果に終わってしまった。




「お前さん、あのメッセージは、どういうつもりで書いたんだい?」


 沙汰を待つ間に、鬼が聞いた。すると彼はこう答えた。


「いやあ、それが全然、俺にもさっぱり分からないんです。死ぬ間際でしょ?力も出ないし、何か書き記そうって体力もない、しかしどうしてか、血の付いた指が動いて、ああいう文字だけを残すことになったんです。人間の体ってのは、死んでも不思議なもんですねえ」

「じゃあ奴らは、何の意味もない文字に惑わされたってことかい」

「気の毒ですが、そういうことです」


 殺されるまで散々悪さをした奴だったが、死んでなお、多くの人を困らせるとは大した奴だと鬼は思った。本人にその気なし、というのがまた、質の悪さを際立たせていた。


 彼らはもう、死んでもこの謎を解くことができない。メッセージを残した男は、閻魔様に舌を抜かれてしまうからだ。語る口すら迷宮入りとは、鬼は鬼なりに、彼らに同情するのだった。

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