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短編小説  作者: ま行


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死者からの手紙

 生まれてこのかた、俺は殺人というものに何の感情も抱いたことはなかった。ただ殺したいから殺す。そういう生き方しかできない人間だった。


 そんな俺の元に、ある一通の手紙が届いた。その手紙の差出人を見て、俺は思わず声を上げて落としてしまった。


 それは俺がつい最近殺した相手だった。どうしてそんな奴から手紙が届くんだ、俺は落とした手紙を拾い上げたが、その手は信じられないくらいに震えていた。


 封を切り、中身を取り出す。手紙の内容に目を滑らすと、更に信じられないことが書いてあった。




 この手紙を読んでいる時、私はこの世にいないでしょう。それは私の計画通りに進めば、あなたが私を殺しているはずだからです。


 あなたが殺人を行う時、その相手を選ぶ基準を、あなたは気が付いていないでしょうが、実は傾向があるのです。私はあなたを長年調べる内に、その傾向に気が付きました。


 そこで私は、あなたの殺人対象になるために、まず自分の姿かたちを変えました。顔を精巧に作り変えて、緻密な計算をしたうえで肉体を調節しました。それには莫大な金額と、多大な苦痛が伴いましたが、この計画が成功すると考えると、まったく苦になりませんでした。


 私はそうして、着々とあなた好みの人間に変わりました。(ここで言う好みというのは、人間的なものではありません。あなたの殺人の嗜好によるものです)


 それから私は、あなたに存在を気取られないよう、用心して用心して、距離を詰めていきました。バレてしまわないかというドキドキは、まるで恋のようでもありました。そう思うと、これは恋文ともいえるかもしれませんね。


 閑話休題、私はようやく、あなたの目に留まった。それが確信できてからは、私はあなたの心を放さないように必死になりました。あなたは私の最期を決める大切な人、万が一にもあなたが逮捕されることのないよう、私はあなたの粗を徹底的に潰しました。


 あまり長々と自分のことを語るのも美しくない、この手紙は、ここで終わりにしようと思います。書き終えてみてやはり、これはあなたに当てた恋文だと思いました。


 私は唯一、あなたに殺された人間ではなく、あなたに殺させた人間です。その事実が、今とても誇らしい。ではこれで、失礼いたします。




 死者からの手紙を読み終えた俺は、思わずそれをビリビリに破いてしまった。息は荒く、呼吸がうまくできない、心臓の音が、体の外にまで響いていそうだ。


「あーあ、もったいない。あなたにとって、唯一の人になれた証なのに」


 耳元でささやかれた声に、もう我慢ができなくなった。俺はそのまま家を飛び出し、自らの罪をすべて告白することに決めた。

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