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短編小説  作者: ま行


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122/150

忘れられた傘

 ああどうしよう、朝の天気予報をちゃんと確認したのに傘を忘れた。ちょうど家に帰る時間帯に雨が降ると言っていたのを見ていたのに、玄関で傘を開いて壊れていないか確認したのに、持ってくるのを忘れてしまった。私はよくこういうことをやってしまう。


「はあ、またやっちゃった」


 間抜けな自分を嘆いても傘が見つかる訳ではない、学校の昇降口で途方に暮れた。雨は止みそうにないし、いよいよとなったら濡れるの覚悟で走って帰るしかないか。


「「はあ」」


 私以外誰もいないはずなのにため息の音が重なった。どこから聞こえてきたのか、不安になってキョロキョロと辺りを見回すと、申し訳なさそうな声が傘立ての方から聞こえてきた。


「あのぉ…」

「は、はい!」

「あ、申し訳ありません。驚かせてしまいましたか?」

「ああ、えっと、ちょっとだけ」


 すみません。そう消え入りそうな声が聞こえてきた。あまりに申し訳なさそうな声にこちらも申し訳なくなる。


「あの、でも、本当に驚いたのは少しだけですから、そんなに気にしないでください。こっちが申し訳なくなるので…」

「あっ、そ、そうですよね。分かりますその気持ち」

「ところでどこにいるんですか?傘立て?」

「そうです!そうです!そこの黒い傘、分かります?」


 あっこれか、私はその傘を手に取った。正直真っ黒すぎて野暮ったい。ハッキリ言うとダサい。


「そうですよね。僕もそう思うんですよ」

「わっ!か、考えが読めるんですか?」

「持った人のだけですけどね。あ、勝手に読んですみません。これ僕がコントロールできる訳じゃないんですよ」

「へー、逆に大変そう」

「そうなんですよ。ごめんなさいね、こんな変な傘に付き合わせてしまって」

「全然いいですよ。一人でちょっと寂しいなって思ってたところだし」


 ただこのまましゃべり続けて変な人だと思われても嫌だから、傘さんは考えを読んでくださいね。


「勿論です」


 それで、傘さんはどうしてしゃべれるように?


「付喪神ってご存じですか?あの、物に魂が宿る的な」


 あー聞いたことあるかも、漫画とかで。えっ、てことは傘さん神様?


「いやあそんな大したものじゃないですよ。実は僕、もう最初の持ち主が誰なのか分からない置き傘なんです。僕も忘れてしまったくらいでして。それで色々な人に何度も使われては置いていかれ、使われては置いていかれを繰り返すうちに、何故かこうして魂が宿る運びになりまして」


 ああ、あるある。へえそれで付喪神に。色々な切っ掛けがあるんですね。


「僕も驚いているくらいですよ。でもねえ、最近は全然誰も使ってくれなくて、ここでひたすらずっと待ちぼうけです。こうして雨の日だというのに、誰にも手を取ってもらえない。それでため息をついてしまった訳です」


 皆今日はちゃんと天気予報見てきたのかもしれませんね。それに正直、傘さんは大きくてちょっと重いかな。もっと軽くて丈夫な傘が今はあるから。


「ですよねえ…。こうして僕は、忘れ去られていく存在なのかもしれません」


 そんなことないですよ。よかったら、私がもらってもいいですか?傘さん。


「えっ?僕は嬉しいけど、いいんですか?」


 ええ勿論。その、恥ずかしながら私傘をよく置き忘れてしまうんです。で、傘さんってしゃべれるじゃないですか、もしよかったら私が持っていくのを忘れそうになったら教えてほしいんです。


「それは勿論!お任せください!僕しゃべれるくらいしか取り柄ありませんから」


 こうして私は忘れられた傘の中から、とびきり特別な傘を見つけた。少し重たくて野暮ったい、それに恥ずかしい考え事はできないけれど、それから傘を置き忘れたことは一度もなくなった。

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