あの月は赤い?
満月の夜、見事なものだと眺めて思う。月を見て美しいと思う心は世界共通だろうか、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「すみませんちょっといいですか?」
「えっ?」
急に話しかけられてびっくりして振り返る、そこにいたのは美しい女性だった。困り顔もどこか艶やかで少しドキリとする。
「どうかしましたか?」
「あの月やけに赤い気がするのですが、どう思います?」
赤いと言われて今度は自分が戸惑った。どう見ても満月は赤ではない、赤茶けて見えてもいないしどちらかと言えば青白いくらいだ。
「いえ、赤くはないと思いますよ」
「そうですか…。突然すみません、ありがとうございました」
そう言ったにもかかわらず、女性はまだぶつぶつと「赤い」と唱え続けていた。もしかして危ない人だったのだろうか、しかしそんな様子には見えなかったので気になってきた。
もしかして自分の目がおかしいのか、そう思い手で目をごしごしとこすってみた。
「いてっ!」
ピリッとした痛みが走り思わず声を上げた。目にゴミでも入っていたのだろうか、それ以上こするのをやめてもう一度月を見た。
「えっ!?」
目に入った満月はやけに赤みがかって見えていた。先ほどまではそんなふうに見えていなかったのに、自分にも月が赤く見える。突然どうして、急に月が赤くなるなんてありえるのか。
通りがかった人がいたので声をかけた。不審な目で見られてもこう聞かずにはいられない。
「すみません。あの月がどうしても赤く見えるんです。あなたにはどう見えますか?」
「えっ?いやそんなことないと思いますけど…」
「そうですか…。でも、赤い。赤いなあ…」
納得することができず「赤い」と呟き続けた。他の人にも聞いてみよう、答えてくれた人に礼を言うと、人が多そうな場所を探して歩き始めた。
「何だったんだあの人、まったく赤くないじゃないか。もしかして俺の目がおかしいのか?」
問われた男はそう言って目をこすった。




