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短編小説  作者: ま行
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不思議な洞窟

 近所の海岸には洞窟がある。そんなに大きくないしパッとしないが、唯一地元の名所と呼べる場所だ。


 原理は分からないけれどその洞窟の中ではいつでも虹を見ることができる。中に入って薄暗い天井を見上げると、そこには岩肌には丸い虹が映り込んでいる。何もない町で、ここだけは訪れる価値があると思う。


 しかし物珍しさに話題になったのは最初だけで、他に見る所もないこの町に観光客を繋ぎ止めておけるだけの魅力はない。あっという間に人はいなくなり、喧騒は波のように引いていった。


「人って勝手なものね。価値あるものって騒ぎ立てたくせに、興味がなくなればすぐ無価値なものにしてしまう」


 私は天井の虹を見上げながらそう言った。虹は変わらず、洞窟の天井に映り続けている。


「だけど私は感謝してるのよ。あなたがそこにあってくれたお陰で人の興味はすっかりそちらに向くもの、上ばかりに気を取られてくれるから私たちは安全に暮らしていけるの」


 洞窟から出て海に足を浸した。すると両足はヒレに変わる。そう、私はここにひっそりと隠れ住む人魚だ。


「妖怪も世知辛いものよ、人の世に混ざらなければ生きていけないもの。でも私だってたまには海で思い切り泳ぎたいじゃない、そんな時海より興味が惹かれる洞窟があってよかった。見上げていれば海底は見えないもの」


 私は海から足を引き上げた。ヒレは消えて素足に変わる、サクサクと砂浜を踏みしめて海岸から立ち去った。不思議な洞窟はいい目眩まし、そう思うと私も身勝手な人間の内の一人なのかもしれない、俗世に染まってきてのだろうかそんなことを思った。

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