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短編小説  作者: ま行
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可愛い

 それは薄暗い学校帰りの通路、男の子が一人歩いていた。手前からは一人の女性が歩いてくる、夏だと言うのに冬用のコートに身を包み、マスクをして帽子を目深に被っていた。


 顔がまったく見えないその女性は徐々に男の子に近づいていく、コツコツと鳴るブーツの音が不気味だ。


 いよいよ二人がすれ違うという時、女性の方がいきなり立ち止まった。


「ねえ?」

「はい?」

「ねえ私綺麗?」


 綺麗かと問われても禄に顔が出ていない、男の子はそれに答えようもなかった。それでも女性はしつこく聞いてくる。


「ねえ綺麗?私綺麗?」

「はあ、まあ綺麗なんじゃないですか」


 面倒くさくなった男の子はそう投げやりに答えた。すると突然女性は帽子を脱ぎマスクを外した。長い髪の毛を振り乱し耳元まで裂けた口をぐぱっと開けて言った。


「これでもお!?」

「まあ美醜の価値観は人によりますから」

「え?」

「そもそも僕は今初めてあなたのお顔をはっきりと見ました。ちゃんとした評価をしてほしければもう少しお顔をお見せになったらいかがですか?」

「え?え?」

「そうですね…、あなたのお顔はどちらかと言うと美しいより可愛い系ですかね。しかしその姿格好はいただけません。夏だというのに季節感のないコートにブーツ、マスクはまだいいとしても、人にものを聞く態度ではありませんよね」

「え?え?え?」

「御髪もお美しいですがちゃんと手入れをなさってください。ほら枝毛。長髪だと何かと不便でしょう。手入れが面倒なら短くするという手もあります。では僕はこれで」

「え、ちょっ、ちょっと!」

「ああ、それとですね。マスクでお口を隠す気持ちは分かります。ですが今の時代手段はいくらでもあります。もし何かコンプレックスを感じていらっしゃるのならそういったこともご検討ください。では」


 男の子はそれだけ言うと颯爽と帰っていった。残された口裂け女は呆然としながらただ立ち尽くす。


 そんな時ポケットに入れていたスマホに通知が入った。見るとそれは美容整形の広告ダイレクトメール。口裂け女もこれも運命かと思い、メールに書かれた番号に電話をかけるのだった。

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