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短編小説  作者: ま行
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ため息回収人

 公園のベンチ、くたびれた勤め人がうなだれて座ったいた。特に嫌になることなどはなかったが、日々生きていて嫌でないことを探す方が難しい。勤め人もそういう日常に疲れて思わずベンチへ座り込んだのだ。


 昔はこんな気持ちで公園のベンチに座ることはなかったと勤め人は思い返す。子どもの頃は友達との待ち合わせに使い、ゲーム機を持ち寄って集まった。今はたった一人で疲れた体を預けて肩を落としている。


「はあ…」


 思わずついた大きなため息、それも星の見えない夜空へと消えていく。どうしようもない虚しさが胸に去来した。


「ちょっとよろしいですか?」

「は?」


 そんな時、急に声をかけられた。声をかけてきたのは見知らぬ男、背には大きな機械を背負い、手にはそれに繋がった奇妙なホースのようなものがある。


「今のため息いただいてもよろしいですか?」

「は?ため息?」

「はい、ため息です。いやあとてもいいため息でした。惚れ惚れしてしまうくらいの寂寥感、この貫禄は中々あなたのようなお年では出せませんよ」


 ため息を褒められるという奇妙な体験をする勤め人。しかし見知らぬ男は何度も頷いて感心していた。その態度を見て本気でそう思っていることを知る。


「で、ため息いただいてもよろしいですか?」

「別に構いませんが、ため息を集めてどうするつもりです?」


 ホースを空中に向けると背負った機械が動き出す。ガコガコと騒がしくさせながら見知らぬ男は言った。


「いえね、ため息って人を不快にさせたり、幸せを逃がすとか言うじゃないですか。だから一つ、私が回収して少しでも幸せに貢献してみようかと思いまして」

「はあ、でもそれって迷信でしょ?」

「私も与太話なのは十分承知しています。でもね、こんなくだらないことを全力でやって幸せを願う人間が一人くらい居てもいいと思いませんか?私は本気ですが、そんな私の姿を笑ってくれるだけでも嬉しいもんですよ。いつか世界中の不幸せを全部集めてみせますよ!」


 見知らぬ男の目は本気だった。それを見て勤め人は呆れるばかりであったが、ため息一つに跳びはねて喜ぶ姿を見て少しだけ笑みがこぼれた。


「あ!ちょっと元気でました?それならよかったです。そうでなくとも素敵な笑顔が見られて私は満足です。ではため息ありがとうございました!」


 その奇妙なため息回収人は元気よく手を振って去って行った。勤め人はその背を見送った。珍妙な人だとは思ったが、確かにそんな人間が一人居てもいいのかもしれない、そんなことを思っていた。


「ため息を喜ぶ人もいるってか…。ふっ、何だそりゃ」


 立ち去る勤め人は笑っていた。どうして面白いのか分からないけど笑っていた。それも幸せと呼ぶのかもしれないと、少しだけ胸のすく思いがしていた。

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