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短編小説  作者: ま行
111/150

辛口

「ヒーッ辛い、いくら何でもこれは辛すぎないか?」

「そう?私はもっと辛くてもいいと思うけど」


 とある場所とある夫婦がそんな会話を交わしていた。食べているものは世界で三番目に辛いと言われている野菜で、それを肉に合わせて食べている。


「本当かい?君は相変わらず強いなあ」

「ふふん、まあね。地元では尊敬されていたものよ」

「そりゃこれだけ辛いものを平気で食べられるのなら尊敬を集めるよ」

「でもあなただって何だかんだ言いながら食べているじゃない」

「食べ切らなきゃもったいないだろ?」

「手に入れるにも苦労したからねえ」


 夫婦はぱくぱくと激辛料理を食べ続ける。夫は何度も「辛い辛い」と言いながら、妻は逆にとっておいた秘蔵のスパイスを足して食べていた。


「はあ…、必要だからとは言えこれは辛いなあ。あまり食べ過ぎるとお腹の調子が悪くなるんだよ」

「ちょっと、情けないこと言わないでよ。これから子どもが生まれてくるっていうのに、お父さんがそんなだと子どもが食べてくれないわよ」

「…そうか、そうだな。確かに父の威厳を見せないとな。おっとそろそろ時間じゃあないか?次は僕の番だったな」


 そう言うと夫は食べるのをやめ、真っ赤な色をした殻をもつ卵の前に立った。そして今まで食べてきた辛さを利用して口から炎のブレスを吹きかけた。温まった卵は誕生の時を待つばかりだ。


「しかし人間も余計なことを言うなあ、ドラゴンは口から火を吹き出すなんて言わなければ僕たちもこんな辛いもの食べ続けずに済んだのに」

「でもその人間から教えてもらったのよ、辛いものを食べると口から火が出るって。お陰でこうして炎の息を吐き出せるようになって、私たちドラゴンは何にも負けない力をつけたんだから」

「だけど僕は辛いものを食べて火を吹いている人間を見たことがないよ?」

「そういえば私もないわ。ならどうしてそんなことを言い出したんでしょうね?」


 夫婦はその疑問に首を傾げた。まさかそれがただの比喩表現だったとは知らず、ドラゴンは火を吹くために辛いものを食べ続ける。子々孫々にその文化を受け継ぎながら。

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