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短編小説  作者: ま行
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万年筆

 おじいちゃんっ子だった私はいつも彼にくっついていた。おじいちゃんは字を書く時にいつも万年筆を使っていた。とても綺麗な物で、子供だった私はおじいちゃんの宝物だったその万年筆を「ちょうだい」と言ってしまった。


「これはな、おじいちゃんが世話になった人から貰った大切な物なんだ。私が死んだらこれをお前にやる、お前は字を書くのが好きだからな」


 おじいちゃんが死ぬなんて言うから私はわんわんと泣いてしまった。困ったようにおじいちゃんは私の頭を撫でて懸命に慰めてくれた。


 死なないでずっと一緒にいて、そうおじいちゃんに言うとおじいちゃんは微笑むけれど答えなかった。今思うと、おじいちゃんは必ず終わりは来るんだと教えてくれていたのだと思う。


 その終わりが来た後、私は言われた通りおじいちゃんの万年筆を受け継いだ。認知症が進んでしまった晩年も、万年筆の手入れだけは欠かさなかった。私が後に使う物だからと楽しそうに笑って言っていたらしい。


 私はおじいちゃんの万年筆を手に取って見た。とても綺麗だ、年代物とは思えない。おじいちゃんが大切に使って丁寧に手入れしてきたからこその美しさで、色々な思い出が一杯詰まっているのだろう。


 試しに字を書いてみた。あまり上手に書けない、おじいちゃんの字はもっと綺麗だった。もう一度書いてみる、やっぱりあまり上手じゃない。


 でも楽しい、字を書くという行為をこんなに楽しいと思ったのはいつ以来だろうか、上手に書けないけれどそれがまた楽しいのだ。


「どうだ?意外と難しいだろう?」


 ふとそんなおじいちゃんの声が聞こえた気がして私は後ろを振り向いた。私はふっと口元を緩めると、心の中でおじいちゃんに言った。


「そうだねおじいちゃん。でも見て、これなんかは上手く書けたと思わない?」


 勿論答えは返ってこない、だけどそれでいい。こうしておじいちゃんの万年筆を使っている時に、私はおじいちゃんと一緒にいられるのだとそう思った。


 いつかきっと私も誰かにこれを渡す日が来るかもしれない、その時はどんな思い出を作ってあげられるだろうか、そんな事を思って万年筆で字を綴るのだった。

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