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短編小説  作者: ま行
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奇妙な会場

 やけに大きな会場が設営されていた。しかし人はまったくいない。


 何のイベントだろうか、周りを見て回ってみても看板も置かれていなければ、配置されている人員もいない。見れば見るほど奇妙な会場だった。


 ただ入り口は開いている。入っていいのだろうか、そもそも何か怪しげな罠ではないのか、でもここまであからさまに怪しいと逆に入ってみたくなるのも人の性と言えるのではないだろうか。


 そうっと入り口の中に入って様子を伺ってみる。シーンとしているしガランとしている、だけど人の気配はある。恐る恐る足を踏み入れてみた。


 やっぱり何人か前を歩いているのが見えた。入っていいんだとやっと安心出来て中を歩いてみる、ガラス張りの壁が続く道を淡々と進む。


 何かを展示している訳でもなく、紹介している様子もない、ますます不思議だった。前を歩く人達も自分と同じ感想を抱くのか困り顔でただ歩いていた。


 結局最後まで歩いて会場の外へと出てしまった。損も得もないけれど、一体何の会場だったのかが最後まで分からなかった。モヤモヤとした気持ちを抱えていると、美しいイベントコンパニオンが派手な衣装で近づいてきた。


「本日はご参加ありがとうございました。こちらをお持ちください」


 渡されたのは結構な額の商品券であった。ただ会場を歩いて通り抜けただけなのに、こんな物を貰っても大丈夫なのか不安になった。


「あの!ちょっと待ってください!」


 去ろうとしていた女性を引き止めた。にこやかな笑顔で振り返った。


「はい。何でしょうか?」

「えっと、これ一体何のイベントだったんですか?これは貰ってもいいもの?」

「お渡しした物はお受け取りください、ご参加いただいた方には全員お配りさせていただいているので。ただイベントの内容を明かす事は規則違反でして…」


 規則違反と言われると逆に聞きたくなる。食い下がると困ったような顔をして彼女が言った。


「分かりました。実はその譲渡品を放棄する事を条件にお教え出来る事になっていまして、オススメはしませんが権利を放棄しますか?」

「ここまできたらします。知りたい気持ちの方が強い」

「ではこちらへどうぞ」


 連れてこられたのは沢山のモニターがついた部屋と、そこに見るからに立場が上のような人々が群がっている。訳が分からないまま立ち尽くしていると、一人の男性が振り返って言った。


「おや、今回も出たのかね?」

「はい」

「君も損な性格だね。見てごらんあのモニターの映像を」


 モニターには会場を困惑して歩いている自分と同じ様な人たちが映し出されていた。それを見て皆「ほお」だの「ふむ」だの感嘆していた。


「これはね、ただの観察会だよ。どんな人が、どれだけこの会場へと入ってくるのかを皆で観察するのさ。どんな行動を取るのかとか、どんな反応を見せるのかとか、それを見るだけの道楽さ。その謝礼を受け取っておけばただ得しただけなのにね」

「何人かはあなたのようなお方が出るんですよ。退屈かもしれませんが、ここで様子を観察していっても構いませんよ」


 映像には本当にただ人が歩いている様子が流されているだけだった。端的に言えば物凄くつまらない。ただ会場にいる人達だけが満足そうに頷いていた。


 あのまま商品券を受け取って帰ったらよかった。この奇妙な会場から立ち去ると、とぼとぼと帰路につくのだった。

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