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短編小説  作者: ま行
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ステッカー

「本当に効くんですか?」

「ええ、効果は保障しますよ。何だったら一筆書いてもいい」


 その出会いは本当に偶然のものだった。たまたま入った飲み屋で一人席、隣の席に腰を下ろしたピシッと決めたスーツ姿の男と意気投合した。


 話の折にこんな話になった。とあるステッカーの話だ。


 その男はスマホのケースに貼り付けていた。絵、というよりも記号のような見た目で、ハッキリ言ってセンスはない。


 しかしこのステッカーを常に身につけておくと幸運が訪れるらしい。一体どんな幸運かと聞くとこんな話が返ってきた。


「いいでしょう?このスーツ。かっこいいと思いません?」

「まあ確かにかっこいいかな、場違い感は否めないけどね」

「これはフルオーダーメイドで800万円です」


 飲み物を吹き出しそうになった。ぐっと我慢して鼻からブッと出てきた。痛みと咳込みで動けない俺をその男は色々と介抱してくれた。


「ちょっと唐突過ぎましたかね」

「ゴホッゴホッ!そりゃいきなりそんな事言われたらね!」

「しかし事実ですので。このステッカーを手に入れてからツキにツキまくりまして、あらゆるギャンブルから投資に株、全部当たる事当たる事。セールで買った吊るしのスーツでヒイヒイ言いながら仕事していた頃が馬鹿みたいですよ」


 そんな馬鹿な話あるのか、当然俺は疑った。しかしその話は本物だった。スーツは誰もが知る高級ブランドで、身につけているものすべてが高級品だった。その真偽は正直分からないが、調べる限り本物だった。


 そして男はそのステッカーを二枚俺に譲るというのだ。そんな物独り占めにした方がいいに決まっているのにだ。


「何も起こらなかったら10億円をあなたに約束しましょう。私にとっては端金です」

「そんな馬鹿な!」

「いいえ本当に約束します。ただ」


 ほらやっぱり、何か裏があるに決まっているんだ。俺は絶対に騙されない。


「一枚はあなたが身につけてください。もう一枚は他の誰かに譲ってください。二枚使えば幸運は二倍になりますが、絶対に二枚使ってはいけません。見知らぬ誰かに譲るのです。いいですか?」

「は?そんな事でいいのか?」

「そんな事が重要なんです。それさえ守ればあなたは幸運です」


 疑いはあった。しかしこれ一枚でそれだけの幸運が手に入ると言われて誰が断れようか、俺はステッカーを受け取ると、早速いつも使っている鞄の内側に貼った。流石に見える所に貼るには恥ずかしい見た目だからだ。


 それからは男の言う通り俺はツキについていた。何もかもが上手くいった。男の言う通りだ、何をやろうと俺は成功し続けた。


 あんな安物の鞄につけるべきじゃなかったと後悔もしたが、今となってはそれは些細な事で、逆に物持ちのよさが長所として好意的に受け取られている。


 俺はそんな鞄の奥にもう一枚のステッカーを見つけた。そう言えば二枚貰っていたんだっけ、そんな事すっかり忘れていた。まあいい。何かを言われていた気がするけれどどうでもいい、俺は成功者だ。




 とある日の同じ飲み屋で同じ席、スーツを着た男は一人で飲んでいた。


「なあお客さん」

「はい?」

「あのステッカーを渡した兄ちゃんだよな?この大事件を起こした犯人って」


 テレビには大成功者が一転して大犯罪者となった姿が放映されていた。その映像に映っていたのが、ステッカーを渡されたあの男だった。


「どういう事だい?あれを手にすると成功者になるんじゃないのか?」

「ええ成功しますよ。だけどそれは言われた事をちゃんと守った場合です。私はあの方がそれを守らないと分かっていたからステッカーを渡したんです」

「そりゃどういう事だ?」

「簡単な話です。どちらか一方しか成功できない、私か彼のどちらかです。このステッカーは幸運を奪い合う、渡した相手が約束を守れば私の幸運は奪われ、守らなければ私の幸運は約束されたままという事です」


 男もまたステッカーを渡された一人だった。これは連鎖する賭けだ。渡さなければ自分はいつか破滅する、しかしステッカーを渡した相手が約束を守らなければ自分は生き残る。そういう賭けだった。


 男は見極めがとても上手だった。その才能はそれまで自分でも自覚していないものだった。それがステッカーによって花開いたのだ。


 強欲でだらしない、言われた事を守れない人間を選んでステッカーを渡していた。男はそうして生き残り続けていた。いつかは自分も破滅する日が来るだろう、しかし今は他者の滅亡を眺める事が心地よかった。それはどんな高価な物より最高であった。

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