伝染
ふと鏡を見た。その時の自分の顔がとても理想的で、誰よりも美しいと思った。こんなに美しいのなら、誰もが私の顔を見て同じことを思うはずだと私は確信した。
それからの私の自撮りは、以前SNSでアップロードした写真とは比べ物にならないくらいにバズった。沢山の高評価に、大量のメッセージ、年齢も性別も関係なく私の元には人々が集まってきた。
気持ちいい。とても気持ちがよかった。何故こんなにも気持ちがいいのか分からなかったけれど気持ちがよかった。世界中の目が自分に向いているような気がして、それがどうしようもなく気持ちがよかった。
服は私を飾り付け、メイクは魅力を高める。アクセサリーはその輝きを私の為に放ち、風景は私が中心にいる事で完成された。私がこんなに輝いているなんて、昔の私が聞いたら信じられるだろうか。
さあ今日も私が輝く場所に行きましょう。ほらスマホの画面を叩くだけでこんなにも私を称える声が…、声が。
どうした事か、私より目立っている奴がいる。私より多くの高評価をもらって、様々な企業がその女に群がっている。こんな女、何処がいいって言うの。写真は全部加工してあるし、光当てまくりだ。
私は違う、私は全部そのままで勝負しているし、何もかもが私によって引き立てられている。こんな作り物なんか目じゃないのに、どうして視線がこっちに移っているの。
全然気持ちよくない。苛立ちが心の中を支配する。あいつ今スマホの画面をいじっている、絶対私のSNSを見ている筈よ。
「おい」
「あ?」
「スマホを見せろ」
「な、何だお前」
「いいからスマホを見せろ!私を見ているんだろう!!」
その男のスマホを奪い取ると、全然違う画面が映っていた。こんな馬鹿な事あってはならない。全部私の写真に変えてやる。
私は自撮りをしてその画像で画面を埋め尽くしてあげた。これで素敵、これで完璧だ。私はその冴えない男にスマホを返すと、次の人の所に向かった。
「しかし恐ろしくも不思議な事件ですね」
テレビでアナウンサーがそうコメントした。
「事件を起こした犯人は、私が一番美しく価値があると言って憚らないようです。肥大化した自信と、過剰なまでの自己顕示欲が彼女を歪めてしまった。恐ろしい事ですね」
コメンテーターがそう言うとアナウンサーは頷いて話を続けた。
「本当にそうですよね、私のSNSを見てくれている人は私しか見ていないから大丈夫ですけれど、容姿に自信があるからって自惚れないでほしいですね」
「え?」
「そう言えばあなたも私のSNSを見ていますよね?当たり前ですよね、私が一番美しいんですから」
テレビの画面がガガッと切り替わってそこで終わった。




