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短編小説  作者: ま行
100/146

100歳の誕生日

 長生きが当たり前になった時代に、老齢になればなるほど人間は不便を強いられていった。


 生きている事は素晴らしい、長生きはそれだけでも偉業である。しかしそれでも、不便は不便だ。


 どうしたって体の機能は衰えてくるし、出来る事は出来ない事に変わっていく、昨日思い出せた事が今日にはもう思い出せない。


 長く生きる事が出来る時代を、昔の人は羨ましがるだろう。自分だってそれだけ生きられたならと、悔しく思うかもしれない。医療福祉の充実は、喉から手がでるほど欲しいものだったのではないか。


 ただ贅沢な考えだと分かっていても、100まで生きれば考えてしまう。自分は死時を逃してしまったんじゃあないかと、丁度いいお迎え時に、死神の手を掴みそこねたんじゃないかと考えてしまう。


 それでも100まで生きたんだ、それを誇るべきだ。こうして家族に囲まれて、100歳の誕生日を祝ってもらえる。こんなに幸せな事が他にあるだろうか。


 私がケーキに立たされた蝋燭の火を吹き消すと、皆笑顔で拍手を送ってくれた。照れくさくもあるが嬉しい。皆とこうしてお祝いを出来る事が喜ばしい事なのだ。


 100歳の誕生日、なんて素晴らしい事だろうか。よく頑張ったと自分を褒めてあげたい。




「どうですか様子は?」

「うん、中々興味深い結果だ」


 博士と助手はロボットを使ってある実験をしていた。モニターに映し出されているのは、ロボットに積まれた人工知能が見ている夢だ。


「しかしこのロボット、本当に100年も稼働し続けたんですか?」

「驚くべき事だがそうだ。部品は摩耗し、ネジが何本か外れていても、機能停止に至っていない」

「もう自発的に動くことは出来ないのに…」

「それでも稼働を続けているのなら、それは故障とは言わんのだろう。特にこのロボットは特別だ」


 博士の言う通りこのロボットは特別だった。


 世界中の技術者が集まり、平和を祈ってその粋を集めてつくられたこのロボット。与えられた仕事は平和の象徴。世界が平和である事を存在が示している。


「当時の最先端技術がこれでもかと盛り込まれている。だからこうしてまだ動いているんじゃないか?まあ、それが皮肉にも争いを招くとは思わなかったのかもな」


 世界中の技術を集めて作られたそのロボットは優秀だった。何が優秀かと言えばサンプルとして優秀だった。


 このロボットを元にして、各国は密かに軍事転用の研究を進めていた。兵士をロボットに、新たな戦争の形は、平和の象徴から作られてしまった。


「自分を人間だと信じて疑わない人工知能も面白いが、精神の摩耗まで見られたのはとても面白い。この技術を研究していけば、我々は世界に先んじる事が出来るだろう」

「これには上層部も満足するでしょう」

「ああ、人を減らしていくにはまだまだ戦力が足りないからな。さあ一緒に夢続きを見ようじゃないか」


 壊れないロボットはいつしか人間の精神を持った。それは争い合いに疲れたからなのか、思考エラーからなのかは分からない。もしかしたらせめて自分の中にだけにも平和を取り戻したかったのかも知れない。


 しかしそんな幸せな100歳の夢も、現実では別の技術に消費されてしまう。生きた事を誇れるか、もしくは多くの死を生むのか、行末は誰にも分からなかった。

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