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第二話

 どうも、こんにちは。ライザです。

 今私は、元々住んでいた王都を離れ……国境付近の辺境にいます。


「ここが、ノヴァ公爵領……」


 見渡す限り、青々とした平原。群れをなす牛たち。空を自由に羽ばたく小鳥。

 大通りを抜けてから、より一層の建物の数や人通りがなくなった気がする。

 正真正銘、ド田舎である。


 馬車に揺られながら、私はカルロス様から届いた手紙にもう一度目を通す。


「一年ほど雇われる準備をして、馬車を待て……かあ。何するのかも全然書かれていないや」


 カルロス様といえば、その醜悪さが有名だ。あまりの醜さに、人が怖がり近づきたがらない。その上、闇夜の中でしか活動しないため、その姿はもう何年も誰も見ていないとか……。


「夜にしか出てこないのに、姿が醜いって。よく考えれば変な話ね。誰が見たっていうのよ」


 ボヤきながら、窓の外に目を戻す。

 のどかなノヴァ公爵領だったが、一つだけ違和感があった。


「……防護結界が一つもないのね」


 アムフルト王国に住むにあたって、防護結界は身近であり必須だ。

 時には家の周りや下水管の連結部分。時には空や畑など。とにかく、魔物が入り込んで欲しくないところには入念に結界を貼る。


 百パーセント魔物の侵入を防げるわけではないが、討伐隊が到着するまでの時間稼ぎにもなる。


 私は視線を横にずらす。

 馬車の進行方向のずっと先には、セモア大森林がわずかに見えた。


「国境に面してる領土なのに、一体どうなっているの」


 聞いたところで返事はない。

 いよいよ外に建物ひとつ見えなくなってきた。といったところで、馬車が止まる。


「着きました」


 御者の声に瞬きを繰り返す。


「え……着いたって……」


 小窓から身を乗り出して確認する。

 うん、やっぱり何もない。ただの平原だ。遠くにそびえる山脈がよく見える。


 御者が平然とした顔で馬車を降りるので、つられて私も外に出る。


 すると、御者は手に持っていたベルを鳴らした。


「カルロス・ヴァレンタイン様! 聖女様がお着きになられました!」


 一瞬の出来事だった。

 空気がたわんだかと思えば、あっという間に目の前の景色が変わっていく。


 瞬きをする間に、目の前に大きな屋敷が現れた。


「隠れ身の魔法です。カルロス様はこうして普段、人目につかないようになさっています」

「凄い魔法……一体何人がかりでやっているんですか?」

「カルロス様一人です」


 耳を疑った。

 姿や物を隠す魔法自体は難しくないが、ここまで巨大となると話は別である。

 建物や街を隠すのなら、優れた魔法使いが十人いても足りないはずだ。


 そうこうしている間に門が開き、屋敷の玄関がゆっくりと開く。

 外に控えたメイド達が頭を下げていることから、カルロス様本人が来たようだ。


 緊張してきた。

 私は公爵様と話せるほど教養が深いわけではないし、高価なドレスも持っていない。


 姿は醜いと聞くが、性格はどんな性格なんだろう。

 酷く手厳しい人だったらどうしよう。不敬だと首を刎ねられてしまうかもしれない。

 手紙には雇いたいと書かれていたけれど、給料はちゃんと出るのかな……。


「いつまで下を向いてモジモジしているんだ」


 頭の中でグルグルと考え事をしていたら、真上から声が降ってきた。

 少し低めの圧を感じる声だ。


 バッと顔を上げる。

 私があまりにも勢いよく顔を上げたせいか、相対する彼も少し驚いた顔で目を開いていた。


「え……」


 唐突に視界に映りこんだ美形男子に、頭の中を巡っていた考えの全てが吹き飛んだ。


「ノヴァ公爵カルロス・ヴァレンタインだ」


 ふわりと柔らかそうな銀髪に、透き通るような蒼い瞳。整った平行眉は、凛々しさを感じる。

 薄らと日に焼けた肌に、高く筋の通った鼻が良く似合う。


 歳は二十代半ばくらいだろうか? 


 感情の見えない無表情ではあったが、噂に聞いた醜悪さなどどこにもなかった。


 なんでこの人が醜悪な公爵と呼ばれているの? 


「ライザ・クリスティ……です。よろしくお願いします……」


 呆気に取られたまま挨拶をしてしまった。

 カルロス様は「ふむ」と言って、私を上から下まで何度も見る。

 やがて、背を向けて歩き出してしまった。


 それを合図かのように、メイド達も動き出し、馬車に積み込んであった私の荷物を運び始める。


「あの! 待ってください!」


 まだ何も聞いていない。

 私は慌ててカルロス様の背中を追い、屋敷の中へと入る。


「カルロス様! 私は何をすれば……どこに住めば!」

「住む場所は、この屋敷だ。俺の部屋にさえ来なければ、好きに出歩いてくれて構わない」


 一度では理解ができず、足が止まる。

 そんな私に合わせたのか、カルロス様も立ち止まった。しかし、振り返ってはくれない。


「一度しか言わない。理解せずとも聞き取れ」

「はい!」

「先月、俺の婚約者を聖女から選ぶことになった。それに伴って、神託の儀を開いた」

「……はあ」


 カルロス様は一度言葉を詰まらせる。

 そして、大きなため息と共に続きを述べ始めた。


「公爵領で神託をやったのは、約百年ぶりだ。つまり……」

「つまり?」

「手順を間違えたのだ」


 絶叫しそうになって、必死に堪える。

 両手で口を押えたが、漏れる息がピィピィと奇妙な音を鳴らした。


「本来とは逆の手順で神託を執り行った。その結果、俺の婚約者として相応しいとお告げがあったのは……二十歳以上の女子で、爵位がなく、無職であること……だ。

 国中の聖女リストを見て、丁度よくお前が失業リストに上がっていた。そして丁度よく平民だった」


 目眩がしそうだ。

 間違った神託で呼び出しを食らったと? 司祭は一体何をしているんだ! 


 だけど私も聖女の端くれ。

 私を呼び出すしかないというのは、ギリギリ理解ができた。


 神託のやり方が正しかろうと間違っていようと、出た結果を無視してはいけない。

 神託をやります。そう決めた時点で、神との契約を結んだようなものだ。不義理を働けば祟りがある。


 それと、必ずしも誤った結果を神から渡されているとは限らない。

 歴史的に見ても、正誤率は半々。……とはいえ、そもそも"神託のやり方を間違えた"なんて記録も片手で数えられる程度なのだが。


「次の再神託の準備が整うまで、一年はかかる。その間、お前は俺の仮の婚約者として振る舞ってほしい」

「わ、たしが……公爵様の婚約者を……」

「給金は出そう。月500ダリン。表向きは一年後に婚約解消となる。その際、女子として傷がつくだろう。慰謝料として10000ダリンを払おう」


 500ダリン!! 

 また絶叫しそうになって、口を抑える。

 ピィピィと指の隙間から漏れた息が音を鳴らす。


 私の普段の給金の20倍以上のお金が毎月入ってくるし、一年後には10000ダリンも貰える! 


 これ、一生働かなくていいやつじゃん! 


 父の薬代を余裕で稼げるだけじゃなく、もっといい病院に連れて行ける。家族全員分の家計も賄える。仕送りしたって有り余るお金だ。


 どうせ地元に戻っても仕事はない。

 結婚する気もないから、今更一つ歳を取ろうが構わない。


「独り身として放り出すのも申し訳ない。良き縁談を代わりに持ってきてやると誓……」

「やります!!」

「……は?」

「本当の婚約者が見つかるまで、私が代理を努めます! 大丈夫です、一度婚約破棄されるも二度されるも一緒ですから!」


 食い気味の私にカルロス様は引いているようだが、どうでもいい。


 かくして私は、カルロス様の婚約者代理を務めることとなった。


もしよければ、ブックマークや高評価★★★★★をしていただければとても嬉しいです!何卒よろしくお願いします!

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[一言] 続きも面白そう。楽しみにしてます!
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