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平民聖女は愛されたい  作者: 志波咲良


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第十話


 領主が国王陛下から直々の勲章を授けられるとのことで、領地内はお祭り騒ぎだ。

 窓を開ければ祭囃子が僅かに聞こえる。


 いつもは静かな屋敷も、今日ばかりは人の出入りが多かった。


「ライザ様! 今度はこちらのドレスを合わせてみましょう!」


 メイドらが何人もバタバタと部屋を行き来し、仕立て屋が持ってきたドレスを私に合わせては首を傾げ、また次に移る。


 当の私は、大きな鏡の前で困り顔で頬をかいていた。


「すみません……地味な顔で」


 赤みが強めな金髪は、この国では実に一般的な髪色。長く伸ばしているとはいえ、いつも作業がしやすいように高い位置での一つ結びしかしたことがない。

 茶色い瞳は、お母さん譲り。背は高くも低くもなくて、目立つ美人とは程遠い容姿だ。


 おかげで公爵位のレディが着るような豪華絢爛なドレスがさっぱり似合わない。


 いくらカルロス様の魔法があるとはいえ、これ以上出立を遅らせるわけにもいかなかった。


 私がガックリと肩を落としていると、慌ててメイドがフォローに入る。


「違います! どれも似合っていますよ!! 似合いすぎてて、どれが一番いいのか迷ってしまうんです!」

「お気遣い恐れ入ります……」


 私の年齢も、きっとドレスを選ぶに迷う理由だと思う。

 二十を超えていて未婚。少女のような明るく色の濃いドレスは似合わないし、既婚女性のような大人しめのドレスも合わない。


「せめて、あと三歳若ければなぁ……」


 あれ。カルロス様って何歳だっけ。

 二十代中頃だろうなと思っていたけれど、笑うようになってからは若返ったような気もする。


 気になって、私の髪を梳っていたメイドに訊く。


「カルロス様って何歳でしたっけ?」

「今年で二十一になられますよ」

「年下ああ!!」


 顔を覆い隠して背を丸める。


 うわああっ! 嘘だ! 

 普段あんな無表情でドシッと構えているくせに、猫にまみれて昼寝して、時々子供のように笑うカルロス様が二十一の青年なわけない! 

 難しい魔法が成功すると時々得意げで、魔物の群れとかにも全然好戦的に立ち向かって、怒った時は結構分かりやすくムッとするカルロス様が……! 


 ……ううん、すごく年相応かも。と思い直して、私は鼻を啜りながら鏡に向かい直す。あ、シミが……。


「……私、黄色が好きなので黄色いドレスでいいですよ。色は薄めにしましょう」


 メイドたちが一生懸命考えてくれているのは嬉しいけれど、できるだけ目立たないドレスにしよう。


 仕立て屋もメイドも何か言いたげだったが、私の希望ならばと着替えを用意し始めた。


 着替えは順調に進み、あとは背中を閉めていくだけ。となった頃、部屋の扉がノックされる。


「ライザ。時間だ」


 扉越しに聞こえるのはカルロス様の声。

 窓の外をみれば、もう屋敷の前に馬車が到着していた。


「も、もうすぐ行きます!」

「まだドレスを決めてなかったのか」

「いま決まりましたから!」


 少し間があって、返事が来る。


「……入っていいか?」


 私の顔が一瞬で赤くなるのと、メイドたちが一斉に動き出したのは同時だった。

 殿方には決して見られてはいけない着替え途中の様々なものを隠し、応急処置で背中を閉める。最後にブランケットを肩にかける。


「はい! どうぞ!」


 妙に元気のいい声で返事をすれば、扉が開いてカルロス様が入ってきた。

 彼の姿に、目が奪われる。動揺した心も頭も、ぱたりと止まった。


 黒を基調とし金色の刺繍が入った宮廷服。胸元のレースは控えめだが、その方がカルロス様に似合っている。

 胸に付いているいくつもの勲章は、彼の地位をそのまま表していた。


 普段は流している前髪も、今日はオールバック。おかげで、いつも隠れがちな青い瞳が今日はよく見えた。


 カルロス様のご尊顔をこれでもかと引き立てる衣装と佇まいに、空いた口が塞がらない。


「……すごく、貴族っぽいです」


 感想をそのままに伝えると、カルロス様が笑みを零す。


「ははっ。お前らしい感想で何よりだ」

「正装ですか?」

「ああ。着るのは、爵位の授与で王城に赴いた時だから……二年ぶりだな」


 カルロス様は手首のボタンを整えながら、私に視線を向ける。そして小首を傾げた。

 まるで、「似合っているか?」と問われた気分になる。


「ひぃっ……!」


 私は口を抑えて後ずさる。

 この男……あざとすぎる! ここにきてまた変な一面を見せないで欲しい! 


 本人は至って自覚がない。そんなことは分かっていて、案の定カルロス様は眉間に皺を寄せた。


「……なぜ逃げる。そんなに不満か」

「違います! 違います!」


 ただでさえ普段から美麗なのに、何一つ欠点のない状態で見つめられたら、悲鳴のひとつやふたつあげるに決まっている! 


 カルロス様は納得のいかない様子であったが、私のドレスを見た途端に表情を変えた。


「それで行くのか?」


 不思議そうな顔で何度か瞬きをするカルロス様に、私は目を逸らして答える。


「わ、私くらいの歳の女性はこういったドレスがいいんですよ……」


 自分で言っておいて地味にショックだ。

 華やかさも派手さもなく、かといって酷く地味なわけでもない。貴族の方々のドレスなんて見たことがないけれど、たぶん誰の記憶にも残らないドレス……だと思う。


 カルロス様は暫く顎に手を当てて考え込んだ後、未試着のドレスがかけられた壁際に向かう。

 そして、ドレスの山の中から一つのドレスを手に持ってきた。


「これにしよう」


 カルロス様は私の背中に回り、ドレスを体の前に持ってくる。鏡越しに見れば、私に上手くドレスが合わせられていた。


 濃いめのピンク生地に白いレースがふんだんに使われたドレス。胸元は開いているが、肩や腕が隠れる袖があるので、成人した淑女であることを示せる。


 年増で未婚。そんな私のアンバランスさを上手く隠してくれるような。それでいて、女性らしい可愛さを全面に出したようなドレスだった。


「可愛い……です」

「きっと似合う」

「で、でも……このドレスは可愛いですけれど、私は似合うような顔立ちじゃないですし! ピンクを着ていい歳でもないです!」


 見上げたカルロス様と目が合って、息を飲む。

 私の緊張なんか他所に、カルロス様は静かに意見を述べる。


「ライザは肌が白い。淡い色のドレスは確かに似合うが、ライザ自身の印象もボヤけさせてしまう。首元まで詰まったドレスにしてしまえば、まるで色の着いたドレスを着ただけの未亡人だ」


 それに、とカルロス様は私の髪に指を通した。


「歳も作法も関係ない。自分に一番似合うものを選べばいい」


 返事は? と問われ、私は頷く。

 心はじんわりと温まり、不安や心配は消えた。それ以上に、早くこのドレスを着てみたいと思えていた。


 言葉で魔法にかけられたような気分だ。


 それ以降は支度に詰まることもなく、化粧も終わってあとは馬車に乗るだけ。


 いつの間にか部屋を出ていっていたカルロス様を追って、私も屋敷の門前へと向かう。


 馬車の入口が空いて、カルロス様が私に手をさし伸ばしてきた。


「やっと来たか」

「遅くなってすみません!」


 あれだけ自分の地味な容姿や歳で悩んでいたことが嘘みたいだ。

 今はこの馬車に乗れるワクワクで心が満たされている。

 カルロス様は私の顔を見ると微笑む。


「いつものライザらしくなったな」

「はい! 馬車で夜会に出かけるなんて……貴族っぽくて楽しみです!」


 着いたらそりゃたくさん考えることはあるし、カルロス様の迷惑にならない立ち回りをしなきゃいけないし……でも今はそんなことより、心のワクワクに従う方が先でしょう! 


 乗り込んだ馬車が走り出す。

 街中を移動していれば、祭りをやっていた人々の声が飛んできた。


「カルロス様、バンザイ!」

「ヴァレンタイン家、バンザイ!」


 誰しもがカルロス様を称える声を上げている。

 嬉しくて、誇らしくて、幸せな気持ちで満たされた。


「愛されてますね、カルロス様!」

「それは、お前もいっ……」


 カルロス様は私何か言いかけたが、ハッとした顔をして言葉を止めてしまった。


「どうしました?」


「……いや。お前は出会った時から変わらない明るさだなと思って」

「初めて王城に行きますし、こんなドレスを着たのも初めてなんです。平民なのに夢のような機会が与えられていて……やっと講習の成果を出せるじゃないかって、楽しみにしてます!」

「お前はそれでいい。変に深く考えず、いつだって楽しめばいい」


 カルロス様は口角をあげ、目を閉じてしまった。


 ◾︎◾︎


 王都に着いたのは夕方直前で、王城に到着するなりカルロス様とはバラバラになってしまった。

 当たり前だけれど、授与式は厳正厳格。国王陛下をはじめとした、国の最高位を持つ者しか玉座の間に入れない。

 私はあくまでただの婚約者であるため、夜会が始まるまでは待機だ。


 来賓室のバルコニーで一人、王城から見える景色を眺める。

 高い城壁越しに落ちていく夕日は綺麗で、跳ね橋を渡ってたくさんの馬車が入ってくるのが見える。全部貴族様の馬車で、今夜の夜会に招かれた人達だろう。


「……凄い人の数」


 彼ら全員、カルロス様を一目見ようと集まった面々。


「わあ……あの白馬高そう……」


 私がいるバルコニーだって、これ一つで実家が三軒建つだろう。貴族の暮らしとはなんたるものかと、肩を竦めていると、私はある一つの馬車に目がいった。


「あの馬車……」


 遠くてよく見えないし、別に似たような馬車はいくらだってある。それに、私だって見たのは数回だけ。……それでも、直感的に以前の婚約者、グレイ様の家の馬車に似ているな、と思った。


「……気のせいか」


 やがて時計の針は回り、夜会が始まる。

次話で第一部完結予定です。そのあと第二部に入っていく予定です。


【大切なお知らせ】

タイトルでお気づきでしょうか!

なんと、このたび『平民聖女は愛されたい』が書籍化することとなりました!

レーベルや発売時期に関してはまだお伝えすることが出来ないのですが、皆様の応援のおかげです!本当にありがとうございます!!


「え!まだこれ完結してないじゃん!」とおもったあなた!

はい……今日からまた必死で書きます……!寒くなってきてお布団の中で丸まっている場合ではなさそうです。

死ぬ気で頑張る作者を、微笑ましく見守っていただければと思います……。


書籍化に関する情報は、活動報告を中心に行っていきます。もしよければ、作者をお気に入り登録フォローしていただければと思います。

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[一言] 書籍化おめでとうございます。
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