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平民聖女は愛されたい  作者: 志波咲良


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第一話

短編版とは三話から話が異なります。

『ライザ。君との婚約を破棄させてくれ』


 婚約者だったグレイ・ホーキンス伯爵にそう言われたのは、もう一週間前。


 グレイ様の隣には、既にうら若き乙女の姿があった。聞けば、子爵家のご令嬢だそうだ。

 平民の私には到底持ちえない、高価なドレスと装飾品を身につけていたことだけ覚えている。


 実家に帰った私は、自室に籠城(引きこもり)し、行き場のない怒りを叫ぶ。


「何が年増な平民聖女よ!! グレイ様の馬鹿! 結局、若い女がいいんじゃないの!」


 私の名前はライザ・クリスティ。

 役所に勤める両親を持つ、ただの平民である。


 そしてアムフルト王国内にいくつもある教会のうちの一つに所属している聖女だった。

 聖女といえば何かしらの肩書きになりそうではあるが、残念ながらこの国ではただの職の一つだ。


「こちとら、就職してから月に一度の休みで働き続けたの! 若さなんて気にしてる余裕もないのよ! だいたい、あんたも四十超えのジジイじゃない! 三回離婚してる伯爵の癖に! 

 あー、ムカつく! 私だってあんたと結婚する気なんて更々無かったわよ!」


 怒りのままベッドに向かって枕を投げつけ、鼻を鳴らしながら椅子に座る。


 アムフルト王国は、魔物の三大発生地と呼ばれるセモア大森林に面している。そのため、この国で聖女の存在は必須だった。

 昼夜問わず湧き出る魔物から国を守るため、結界や浄化の仕事が絶えない。


 激務、激務、激務。


「そして安月給!!」


 聖女の給料は、市民階級がそのまま反映される。仕事量の負担は身分の低い聖女ほど多い。


 時には、下水管のある地下道に赴き、臭さと戦いながら浄化。

 時には、埃だらけの廃墟の結界張り。防護結界が綻びたと連絡があれば、夜中でも叩き起されて現地に向かう。


 そんな平民聖女の涙ぐましい努力が日の目を見ることはない。


 なにせ、新聞に載るのは帝国騎士団に仕える爵位持ち聖女ばかり。

 戦場での華々しい活躍や神託での儀式など、誰が見ても"凄い仕事"は、彼女達のモノだ。


「貴重な聖女なら、爵位に関係なく丁寧に扱いなさいよ! 何なのよ、この国は!」


 休む暇もない多忙な日々の中、気づけば私は二十三歳。

 グレイ様と出会ったのは、一年前だ。私の将来を案じてくれた神父の紹介で知り合った。


 ただし、グレイ様からは条件を貰った。


『結婚したら聖女の仕事をやめること。伯爵領は今いる聖女で充分だから、家庭に尽くして慎ましく生きてほしい』


 妻は家庭だけを守ればいい。

 それを聞いて、元々興味がなかった結婚にさらに興味がなくなった。


 私はなんだかんだ、聖女の仕事が好きだ。

 激務だし安月給だが、私の力が国を守る一部になっているのは誇らしい。


 もちろん、爵位持ち聖女が羨ましくないといえば嘘になる。本当は一度くらい、あの華々しい舞台で活躍してみたい。


 けれど、たとえ新聞に載らなくても、市民から貰う「ありがとう」の一声が明日を頑張る原動力になる。


 そんな思いがありながらも、私はグレイ様の婚約を受けた。


 父が、倒れたのだ。


 元々、心臓が弱い人だった。

 私の行く末を案じ、孫の顔が見たかったと病室で語る姿を見て、決心した。


 そんな決断も今や水の泡だ。


「私の婚約を聞いた途端、お父さんは一瞬で元気になって退院したし! 婚約は結局破棄されるし!」


 この際、婚約破棄されたことはどうだっていい。むしろバンザイ。お父さんさえ元気になったのならそれで良し。


 まあ、婚約破棄された女というレッテルを獲得してしまったが、先の人生結婚する気など毛頭ないのでそれも良し。


「……そんなことより」


 私はテーブルの上の書類に目を向け、息を吐き出す。


「……仕事、なくなっちゃった……」


 婚約に先立って、教会との年間労働契約を更新しなかった。

 やはりもう一度、と雇い直して欲しいと願ったがグレイ様の圧力によりそれも叶わない。


「そっちから一方的に破棄したくせに、今度はそれが気まずいのね。ほんと、身長も心臓も小さい男」


 婚約破棄した挙句にこれはあんまりだ、とどれだけ不服を訴えようとも、平民に為す術なし。


 一応、失業聖女として登録はしたが、未だに雇用の話は降ってこない。婚約破棄された女の末路とは……なんと悲しいことか。


「……別にいいわよ。聖女は沢山いるし。なのに、仕事は多いし給料は上がらないし……教会のご飯、味薄いし。好き好んで汚水の匂いを嗅ぎに行っていたわけじゃないし……」


 自分を納得させるための言い分を呟く。それでも、脳裏には苦しいながらも楽しかった日々が思い浮かんだ。


 私は自分の手を広げ、見つめる。


 結婚は諦めた。仕事は失った。

 今日も街のどこかで、私の同僚が忙しく働いている。なのに私は、部屋で一人いじけているだけ。


 早く働かなければいけない。

 退院したとはいえ、本調子じゃない父の代わりに家計を支えなければ。


 なのにどうして、私は椅子に座ったままなのだろう。


「……がむしゃらに走ってきた人生だったからなぁ……。立ち止まっちゃうと、何していいのか分かんないなぁ……」


 全力で駆けてきた人生。再起動にかかる精神労力がこれほどとは知らなかった。


 コンコンっと、部屋の扉が叩かれる。


「ライザ……」


 部屋に入ってきたのは、父だった。

 顔が真っ青で、口元はワナワナと震えている。


 父は退院したが、また無理をすれば倒れるかもしれない。本当は大きな病院でもっといい薬が貰えたらいいんだけど……。


「お父さん! どこか具合が悪いの!?」

「お、お前宛てに……王家から郵便が……」


 父が持ってきた真っ白な便箋には、赤い薔薇の封蝋がされている。

 王族の血を引く者だけが使う封蝋だ。


 恐る恐る便箋を裏返す。

 差出人は──


「ノヴァ公爵カルロス・ヴァレンタイン様……」


【大切なお知らせ】

この作品が面白そう!楽しみ!どんな話になるのかな!連載版きちゃ!と少しでも思っていただけた方は、ブックマークや下の高評価★★★★★で応援していただけますととっても嬉しいです。


短編を楽しんだ皆様も、初めましての方もよろしくお願いします。

内容はガッツリ加筆しますので、1話目から追うことをオススメします!


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