お茶会の続き 旅のお誘い
「シャルロット様、お変わりはありませんか?」
「ええ。相変わらずですわ。」
「そうですか。」
ニコラはほうっとため息をついた。相変わらずということはつらい日も多いということだ。新たな死を体験しなくとも、記憶として体験してきた死がシャルロットの心にどんどん積み重なっていく。心安らぐ時間はあまりないのだろう。
「今度、うちの領地に来られませんか?ルコント領は自然が多くて、美しいところです。別邸の方だとほとんど人がおりません、何も気にすることなくゆっくり日頃の疲れがとれると思うのですが。」
「まあ、素敵ですわ!」
ほとんど家に引きこもっているシャルロットには魅力的なお誘いだ。
人に会う心配をせず、外を楽しめるなんてどれほど素晴らしいことだろう。
「姉上、だめですよ。ニコラ様、姉上はあまり体が丈夫ではないのです、ですからそんな遠くに行かせるわけにはまいりません。」
「じゃあなおさら療養にいいんじゃないかな?」
ニコラも引かずに笑顔で、挑発するようにシリルに言う。
「シリル、私は別に病弱ではありません。心配ないって言ったでしょう。」
「でも」
「心配なら、シリル様もご一緒されればいいのでは?それなら安心でしょう?」
「え?」
まさかそういうとは思わなかったシリルは驚いた。シャルロットと二人きりになろうと誘ったのではないのか?下心なく純粋な好意だというのか?
「ニコラ様、ありがたいお申し出ですが私一人で大丈夫ですわ。シリルにも都合がありますし、迷惑をかけられませんわ。」
(いやいやいや。ないないない。せっかく羽を伸ばしに行くのに、なんでシリルと一緒に行かなきゃならないのよ。)
「いえ、姉上。僕は構いません。姉上が行きたいのならご一緒します。」
「いえ、あなたには学院もあるし、お父様のお手伝いもしているでしょう。あまり長く家を離れるのは良くないわ。」
「父上の許可をいただきますので。先日のように発作を起こしたらどうするのですか?一人では行かせませんから」
(ええ~?どうして?私の事嫌いなんだから、私がいないと清々するでしょうに・・・・どうしよう・・・ニコラ様何とかして!)
ちらっとニコラを見た。ニコラは心得たというように笑った。
「シリル様、噂はしょせん噂のようですね。」
「どういうことでしょう?」
「いえ、シリル様とシャルロット様はあまり仲が良くないと噂を耳にしましたので。」
噂どころか、直接シャルロットから日頃の言動を聞いている。
「いや、それはっ」
慌てたようにシリルは否定しかけて一旦口をつぐんだ。
「・・・・。噂に踊らされて姉上に最低なことをしてきたのは事実です。」
シリルは立ち上がるとシャルロットに向かって頭を下げた。
「ちょっと?!シリル?」
「姉上、これまで本当に申し訳ありませんでした。僕は真実を見ようともせず、噂を鵜吞みにして姉上に当たり散らしていました。姉上がそんな人間じゃないことは僕が一番知っていたはずなのに・・・なのにごめんなさい!」
「ちょっと、やめなさい。ああ、ニコラ様申し訳ありません。お招きいただいた席でこのような内輪のもめ事をさらすなんて」
「かまいませんよ、誤解を解くのにちょうどよかったじゃありませんか。シャルロット様の憂いがこれで少しは晴れたのではないですか?」
それを聞いてますますシリルは頭を下げた。
「わかりました!もう謝罪は受け入れます!だから頭を上げて」
シリルに頭を上げさせると座るように言った。
「だからと言ってすぐに何もなかったようにできるかどうかはわからないわ。」
シリルはうなだれたように視線を落とす。
「でもちゃんと話をしなかった私も悪いの。自分のことが精いっぱいで周りがどう思うかなんて気にすることができなかった。気が付いたら噂が広まっていて、どうしようもなかったし、それを覆すだけの方法も判らなかったし気力もなかったの。・・・お父様とニコラ様達さえいればもうどうでもいいと思ってたの」
「姉上っ。ごめん・・・なさい。」
「だからおあいこ。謝ってくれてありがとう、とてもうれしい」
「良かったね、二人とも。仲直りに美味しいお茶を入れなおすよ。」
ニコラはドアの外まで行き、言いつけるとワゴンに乗せた熱い紅茶が届けられた。
お茶のお代わりをいただきながらシリルは何度もこれまでのことを謝り、これからは周りの誤解を解くように動き、悪意があれば守ると心強いことを言ってくれた。
そしてルコント領には3人で向かうことになってしまった。




