表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

イジメから逃げるために転校したら、なぜか学園の高嶺の花や現役アイドルの後輩からモテる。~しかもボクを巡って美少女たちが恋愛戦争を始めてるんだけど、どうやらみんな自分が彼女だと勘違いしている~

作者: あざね

短編を書いてみました。

気軽に評価など、よろしくお願いします。


※連載版始めました。あとがきの下から、リンクで飛べます。









「ほら、悠! さっさと焼きそばパン、買ってきなさいよ!」

「………………!」



 イジメの主犯格である女子生徒が、ボクにそんな指示を出す。

 こんな生活が始まって、もうどれだけの月日が経ったのだろうか。実際にはまだ一年と少しなんだけど、もう十年は経っているように錯覚した。

 それほどまでに、毎日が辛い。

 相手が理事長の孫だから、逆らうこともできなかった。

 もし逆らったとして、なにか仕返しをされるのが怖かったんだ。



「でも……!」



 なにか、行動を起こさないといけない。

 もうイジメに怯える毎日なんて、ウンザリだ!


 だからボクは、決断した。

 この地獄のような日々から抜け出すために、変わってみせるって……!







「えー、今日からこのクラスに転校してきた篠宮悠くんだ。時季外れの転校ではあるが、どうかみんな仲良くしてやってほしい」

「し、篠宮悠です! よろしくお願いします!!」



 一か月後、ボクは別の高校にいた。

 県下でも有名な私立、立花学園。偏差値はそこまで高いわけではないのだけれど、とかく潤沢な設備が整っていた。バックにあるタチバナグループという会社は、世界でも有数の企業として名前が通っている。

 そんな学校に、父親の仕事の都合ということで編入したボク。

 緊張しながらも挨拶すると、数秒の間を置いて、熱烈な拍手で迎えられた。



「これ、少し落ち着きなさい! ――篠宮くんの席は、窓際の最後尾だ」

「分かりました」



 なにやら、クラスメイトの視線が熱いのだけど。

 その理由が分からないまま、ひとまずボクは窓際最後尾の空席に腰かけた。するとすぐに、隣の席にいた女子生徒が声をかけてくる。



「わたし、安藤菜穂! よろしくね、篠宮くん!」

「う、うん。よろしく」



 ――安藤菜穂。

 そう名乗った女の子は、栗色の髪をした癒し系な外見をしていた。

 ゆるふわ系の美少女とも表現できるだろうか。柔らかなその微笑みは、以前の学校では間違いなく見られなかったもの。向けられているだけで、胸の奥が温かくなってきた。

 だからボクも自然と笑みを浮かべる。


 すると、



「はわ……!」

「え?」

「う、ううん!? な、なんでもないの!!」



 どうしたのだろうか。

 安藤さんが、顔を真っ赤にしてしまった。

 風邪でも引いたのだろうか。――この一瞬で?



「ね、ねぇ……?」

「うん?」



 そう考えていると、モジモジしながら彼女はボクにこう訊いてきた。



「篠宮くん、って。彼女さん、いるの?」――と。







 ――昼休みになった。

 ボクは立花学園の食堂に向かう。

 なんでも噂では、多少値は張るものの一流の料理を堪能できる、とのことだった。さすがは高級レストランを経営するタチバナグループ、力を入れている。



「あれ、なにか騒がしいな」



 さて、ほんの少し心を躍らせながら足を踏み入れた時だった。

 食堂の中――その奥の方が騒がしい。ボクは首を傾げながらも、小さな野次馬根性を発揮してそちらへと足を運んだ。

 すると人の波の向こうに見えたのは、一人の女子生徒の姿。



「いいですか? わたくしは、この学園の理事長の孫。すなわちタチバナグループのトップの娘でもあるのです! ですから、食堂を自由にする権利を持っているのです!」



 金色の髪をした彼女はそう言って、その場にいる学生に宣言した。

 その時になって、ようやく顔が確認できる。蒼の瞳に、凛々しい顔立ちの美女だった。安藤さんとは対照的に棘のある雰囲気、といえば良いのだろうか。

 簡単には触れることができない。

 そんな印象を受けさせるような女の子だった。



「良いですね。異議がないのであれば、今日限りで食堂は閉めることにします」

「え、ちょ……!?」



 そう考えていると、不意打ちのようにその子が言う。

 ちょっと待ってくれよ。楽しみにしてきたのに、食堂がなくなる……!?



「横暴だ……!」

「でも、相手は理事長の孫だぞ……?」

「間違いなんて聞き入れないだろうな」



 動揺したのはボクだけではなかった。

 周囲にいた学生たちは、みな口々にそう話している。しかし異議を唱える者はいなかった。それはもしかしたら、彼女が理事長の孫である、ということが関係しているのかもしれない。



「……理事長の、孫」



 ボクはその単語に、引っかかりを覚える。

 そして、思い出すのは前の学校でボクをイジメていた女子のこと。



「…………! ダメだよ、それで誰かが幸せになるの!?」

「あら、貴方はどなた?」

「えっと……!」



 そうしていると、無意識のうちに前に出ていた。

 声を上げて、異議を唱える。


 鋭い眼差しに射竦められ、思わず言葉が詰まってしまう。

 でも、ここで負けてはいけない。


 だって、ボクは自分を変えると誓ったのだから……!




「ボクの名前は、篠宮悠! キミがどれだけ偉いのかは知らないけれど、こんな横暴は見過ごせないよ!」

「…………」




 必死に声を絞り出した。

 相手の揺らぎない瞳を真っすぐに見つめ返して。

 ボクは過去の自分と決別するため、その女の子に立ち向かった。すると、



「面白いですわね」

「え……?」



 ふっと、小さな笑みを浮かべて。

 目の前の女子生徒は、ボクのもとに歩み寄ってきた。そして、こう言う。



「貴方、わたくしが立花貴音と知っての発言かしら?」――と。



 彼女――貴音は、嬉しそうに。

 心の底から満足したように、笑うのだった。







「つかれた……」



 ――放課後。


 ボクは一人、グラウンドの外れにあるベンチに腰かけていた。

 部活動の盛んな立花学園。野球部は全国大会の常連だし、サッカー部に至っては全国制覇を果たしている。それ以外にも、多くの部活動がトップレベル。

 プロ選手も輩出しており、活気に満ちていた。


 そんな部員たちの声が響き渡る中で、ボクはふと視界の端に何かが見えたことに気付く。ゆっくりとそちらへ視線を投げると、そこには一人の女の子がいた。



「どうしたの? キミ」

「あ――!?」



 瓶底のような眼鏡をした、お下げ髪の少女。

 とても小柄だから、もしかしたら下級生かもしれない。ボクの声に驚いたのか、コソコソと移動していたその子は肩を大きく弾ませた。

 すると、その拍子に――。



「あ、眼鏡……!」



 特徴的な瓶底眼鏡が、ポロリと落ちた。

 するとその奥にあったのは、どこかで見たことのある顔。いいや、考える必要はなかった。ボクは何度もその顔を、テレビ越しに見てきたのだから。


 だから思わず、口から彼女の名前が出ていた。



「え、木村エリナ……さん?」



 木村エリナ――いま、話題沸騰のアイドル。

 ひと際整った顔立ちをした彼女は、慌てて瓶底眼鏡を拾い上げた。そして周囲を見回してから、慌てた様子でボクのもとへと駆け寄ってくる。

 怒っているのか、それとも困惑しているのか。

 微かに見える眼鏡越しの円らな瞳は、少しばかり潤んでいるように思えた。



「あ、あの……! アタシのこと、誰にも言わないでくださいね!?」

「ん、どういうこと?」

「この学園に通っているのは、秘密なんです!」

「あー、なるほど……」



 ボクはエリナの言葉に、納得する。

 どうやら、この学園においてエリナは普通の女子生徒、ということらしい。たしかに、彼女のような超有名人がいると知れたら、大パニックになる。

 それを避けたい、ということか。



「うぅ、お願いします……!」



 懇願するエリナ。

 ボクは、そんな彼女の気持ちを察して笑いかけた。



「大丈夫。誰にも言わないよ」

「え……?」



 そして、そう約束する。

 だって学校で悪目立ちすることの辛さを、ボクは知っていたから。

 一人に玩具として弄ばれたら、他の生徒もそうして良いものだと勘違いするのだ。だから、エリナの秘密はここで留める、そう誓った。


 しかし、その反応が意外だったらしい。

 エリナは呆然として、でもすぐに嬉しそうに笑うのだった。



「えっと、お名前は――」

「篠宮悠だよ」

「篠宮さん……。篠宮さんは、アタシのことを特別扱いしないんですね」

「特別扱い……?」



 ボクが訊き返すと、エリナは隣に腰かけて話し始める。



「アタシ、昔からテレビに出てたから。中学の時から、色々な人に特別扱いされて――学校では馴染めなかったんです」

「あぁ、そうなのか……」



 それを聞いて、ボクは少し彼女が不運に思えてきた。

 決してエリナが悪いわけではない。


 それなのに、周囲がそうは思わなかったわけだ。

 ボクはそれを理解し、一つ頷いた。



「うん、だったらなおさらだね。……はい!」

「え……?」



 そして、彼女の手を取って小指同士を絡ませる。



「指切り! エリナの正体は、ボクとキミだけの秘密だよ、ってね」



 笑いかけると、エリナは目を丸くして。

 だけどすぐに笑って、こう言うのだった。




「あ、ありがとうございます! 篠宮さん……!」――と。












 そうして、数日が経過した。

 昼休み。ボクは教室で苦笑いを浮かべていた。


 何故なら――。



「篠宮くん! 一緒にお弁当食べよう!」

「邪魔ですわ。悠は、わたくしと食堂へ行くのです」

「え!? アタシと、お昼ご飯食べてくれますよね!? 先輩!!」

「え、えー……?」



 三人の美少女に、囲まれていたのだから。

 いったい、どうしてこうなった?



 ボクが目を回していると、各々に顔を見合わせて。

 三人の少女は、同時にこう言うのだった。




「わたしの彼氏に、手を出さないで!」

「わたくしの悠に、手を出さないでください!」

「アタシだけの先輩に、触れないで!!」




 ――沈黙。



 ボクは、思わずこう叫ぶのだった。




「え、えええええええええええええええええええええ!?」――と。






 どうして、そうなったあああああああああああああああああああ!?





 


ここまでお読みいただきありがとうございます。



面白かった

続きが気になる



もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより★評価など。

創作の励みとなります。


連載版共々、応援よろしくお願いいたします!

<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「連載版」こちらも、よろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
[一言] 連載版の方も見ました〜これからも期待してます٩(°̀ᗝ°́)و
[一言] これは・・・連載欲しい。 前の学校のいじめの主犯格がいじめてた理由とか書いて欲しい(まぁなんとなく想像できるけど・・・)
[一言] 連載版して欲しい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ