イジメから逃げるために転校したら、なぜか学園の高嶺の花や現役アイドルの後輩からモテる。~しかもボクを巡って美少女たちが恋愛戦争を始めてるんだけど、どうやらみんな自分が彼女だと勘違いしている~
短編を書いてみました。
気軽に評価など、よろしくお願いします。
※連載版始めました。あとがきの下から、リンクで飛べます。
「ほら、悠! さっさと焼きそばパン、買ってきなさいよ!」
「………………!」
イジメの主犯格である女子生徒が、ボクにそんな指示を出す。
こんな生活が始まって、もうどれだけの月日が経ったのだろうか。実際にはまだ一年と少しなんだけど、もう十年は経っているように錯覚した。
それほどまでに、毎日が辛い。
相手が理事長の孫だから、逆らうこともできなかった。
もし逆らったとして、なにか仕返しをされるのが怖かったんだ。
「でも……!」
なにか、行動を起こさないといけない。
もうイジメに怯える毎日なんて、ウンザリだ!
だからボクは、決断した。
この地獄のような日々から抜け出すために、変わってみせるって……!
◆
「えー、今日からこのクラスに転校してきた篠宮悠くんだ。時季外れの転校ではあるが、どうかみんな仲良くしてやってほしい」
「し、篠宮悠です! よろしくお願いします!!」
一か月後、ボクは別の高校にいた。
県下でも有名な私立、立花学園。偏差値はそこまで高いわけではないのだけれど、とかく潤沢な設備が整っていた。バックにあるタチバナグループという会社は、世界でも有数の企業として名前が通っている。
そんな学校に、父親の仕事の都合ということで編入したボク。
緊張しながらも挨拶すると、数秒の間を置いて、熱烈な拍手で迎えられた。
「これ、少し落ち着きなさい! ――篠宮くんの席は、窓際の最後尾だ」
「分かりました」
なにやら、クラスメイトの視線が熱いのだけど。
その理由が分からないまま、ひとまずボクは窓際最後尾の空席に腰かけた。するとすぐに、隣の席にいた女子生徒が声をかけてくる。
「わたし、安藤菜穂! よろしくね、篠宮くん!」
「う、うん。よろしく」
――安藤菜穂。
そう名乗った女の子は、栗色の髪をした癒し系な外見をしていた。
ゆるふわ系の美少女とも表現できるだろうか。柔らかなその微笑みは、以前の学校では間違いなく見られなかったもの。向けられているだけで、胸の奥が温かくなってきた。
だからボクも自然と笑みを浮かべる。
すると、
「はわ……!」
「え?」
「う、ううん!? な、なんでもないの!!」
どうしたのだろうか。
安藤さんが、顔を真っ赤にしてしまった。
風邪でも引いたのだろうか。――この一瞬で?
「ね、ねぇ……?」
「うん?」
そう考えていると、モジモジしながら彼女はボクにこう訊いてきた。
「篠宮くん、って。彼女さん、いるの?」――と。
◆
――昼休みになった。
ボクは立花学園の食堂に向かう。
なんでも噂では、多少値は張るものの一流の料理を堪能できる、とのことだった。さすがは高級レストランを経営するタチバナグループ、力を入れている。
「あれ、なにか騒がしいな」
さて、ほんの少し心を躍らせながら足を踏み入れた時だった。
食堂の中――その奥の方が騒がしい。ボクは首を傾げながらも、小さな野次馬根性を発揮してそちらへと足を運んだ。
すると人の波の向こうに見えたのは、一人の女子生徒の姿。
「いいですか? わたくしは、この学園の理事長の孫。すなわちタチバナグループのトップの娘でもあるのです! ですから、食堂を自由にする権利を持っているのです!」
金色の髪をした彼女はそう言って、その場にいる学生に宣言した。
その時になって、ようやく顔が確認できる。蒼の瞳に、凛々しい顔立ちの美女だった。安藤さんとは対照的に棘のある雰囲気、といえば良いのだろうか。
簡単には触れることができない。
そんな印象を受けさせるような女の子だった。
「良いですね。異議がないのであれば、今日限りで食堂は閉めることにします」
「え、ちょ……!?」
そう考えていると、不意打ちのようにその子が言う。
ちょっと待ってくれよ。楽しみにしてきたのに、食堂がなくなる……!?
「横暴だ……!」
「でも、相手は理事長の孫だぞ……?」
「間違いなんて聞き入れないだろうな」
動揺したのはボクだけではなかった。
周囲にいた学生たちは、みな口々にそう話している。しかし異議を唱える者はいなかった。それはもしかしたら、彼女が理事長の孫である、ということが関係しているのかもしれない。
「……理事長の、孫」
ボクはその単語に、引っかかりを覚える。
そして、思い出すのは前の学校でボクをイジメていた女子のこと。
「…………! ダメだよ、それで誰かが幸せになるの!?」
「あら、貴方はどなた?」
「えっと……!」
そうしていると、無意識のうちに前に出ていた。
声を上げて、異議を唱える。
鋭い眼差しに射竦められ、思わず言葉が詰まってしまう。
でも、ここで負けてはいけない。
だって、ボクは自分を変えると誓ったのだから……!
「ボクの名前は、篠宮悠! キミがどれだけ偉いのかは知らないけれど、こんな横暴は見過ごせないよ!」
「…………」
必死に声を絞り出した。
相手の揺らぎない瞳を真っすぐに見つめ返して。
ボクは過去の自分と決別するため、その女の子に立ち向かった。すると、
「面白いですわね」
「え……?」
ふっと、小さな笑みを浮かべて。
目の前の女子生徒は、ボクのもとに歩み寄ってきた。そして、こう言う。
「貴方、わたくしが立花貴音と知っての発言かしら?」――と。
彼女――貴音は、嬉しそうに。
心の底から満足したように、笑うのだった。
◆
「つかれた……」
――放課後。
ボクは一人、グラウンドの外れにあるベンチに腰かけていた。
部活動の盛んな立花学園。野球部は全国大会の常連だし、サッカー部に至っては全国制覇を果たしている。それ以外にも、多くの部活動がトップレベル。
プロ選手も輩出しており、活気に満ちていた。
そんな部員たちの声が響き渡る中で、ボクはふと視界の端に何かが見えたことに気付く。ゆっくりとそちらへ視線を投げると、そこには一人の女の子がいた。
「どうしたの? キミ」
「あ――!?」
瓶底のような眼鏡をした、お下げ髪の少女。
とても小柄だから、もしかしたら下級生かもしれない。ボクの声に驚いたのか、コソコソと移動していたその子は肩を大きく弾ませた。
すると、その拍子に――。
「あ、眼鏡……!」
特徴的な瓶底眼鏡が、ポロリと落ちた。
するとその奥にあったのは、どこかで見たことのある顔。いいや、考える必要はなかった。ボクは何度もその顔を、テレビ越しに見てきたのだから。
だから思わず、口から彼女の名前が出ていた。
「え、木村エリナ……さん?」
木村エリナ――いま、話題沸騰のアイドル。
ひと際整った顔立ちをした彼女は、慌てて瓶底眼鏡を拾い上げた。そして周囲を見回してから、慌てた様子でボクのもとへと駆け寄ってくる。
怒っているのか、それとも困惑しているのか。
微かに見える眼鏡越しの円らな瞳は、少しばかり潤んでいるように思えた。
「あ、あの……! アタシのこと、誰にも言わないでくださいね!?」
「ん、どういうこと?」
「この学園に通っているのは、秘密なんです!」
「あー、なるほど……」
ボクはエリナの言葉に、納得する。
どうやら、この学園においてエリナは普通の女子生徒、ということらしい。たしかに、彼女のような超有名人がいると知れたら、大パニックになる。
それを避けたい、ということか。
「うぅ、お願いします……!」
懇願するエリナ。
ボクは、そんな彼女の気持ちを察して笑いかけた。
「大丈夫。誰にも言わないよ」
「え……?」
そして、そう約束する。
だって学校で悪目立ちすることの辛さを、ボクは知っていたから。
一人に玩具として弄ばれたら、他の生徒もそうして良いものだと勘違いするのだ。だから、エリナの秘密はここで留める、そう誓った。
しかし、その反応が意外だったらしい。
エリナは呆然として、でもすぐに嬉しそうに笑うのだった。
「えっと、お名前は――」
「篠宮悠だよ」
「篠宮さん……。篠宮さんは、アタシのことを特別扱いしないんですね」
「特別扱い……?」
ボクが訊き返すと、エリナは隣に腰かけて話し始める。
「アタシ、昔からテレビに出てたから。中学の時から、色々な人に特別扱いされて――学校では馴染めなかったんです」
「あぁ、そうなのか……」
それを聞いて、ボクは少し彼女が不運に思えてきた。
決してエリナが悪いわけではない。
それなのに、周囲がそうは思わなかったわけだ。
ボクはそれを理解し、一つ頷いた。
「うん、だったらなおさらだね。……はい!」
「え……?」
そして、彼女の手を取って小指同士を絡ませる。
「指切り! エリナの正体は、ボクとキミだけの秘密だよ、ってね」
笑いかけると、エリナは目を丸くして。
だけどすぐに笑って、こう言うのだった。
「あ、ありがとうございます! 篠宮さん……!」――と。
◆
そうして、数日が経過した。
昼休み。ボクは教室で苦笑いを浮かべていた。
何故なら――。
「篠宮くん! 一緒にお弁当食べよう!」
「邪魔ですわ。悠は、わたくしと食堂へ行くのです」
「え!? アタシと、お昼ご飯食べてくれますよね!? 先輩!!」
「え、えー……?」
三人の美少女に、囲まれていたのだから。
いったい、どうしてこうなった?
ボクが目を回していると、各々に顔を見合わせて。
三人の少女は、同時にこう言うのだった。
「わたしの彼氏に、手を出さないで!」
「わたくしの悠に、手を出さないでください!」
「アタシだけの先輩に、触れないで!!」
――沈黙。
ボクは、思わずこう叫ぶのだった。
「え、えええええええええええええええええええええ!?」――と。
どうして、そうなったあああああああああああああああああああ!?
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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