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VOYAGE  作者: マジコ
2/2

VOYAGE その2

「その魔法使いは最初数日滞在したら次の村へと旅を続けようとしていたそうです。でも、当時は魔王軍の動きが活発化していて村の周辺に棲息している魔物に村は怯えていたんです。どうしても村を守る魔法使いが欲しかった村人はこの魔法使いを引き留めたのです。始めは固辞していた魔法使いですが、遂に村人の求めに応じて村の専属魔法使いになったんです。」

「その頃はまだ魔法使いを毛嫌いしてなかったんだな。」

「はい。むしろ憧れのようなものがあったのではないでしょうか。」


今のところ女の子が産まれた村はありふれた村である。魔法使いを村に常駐させて外敵から村を守るというのはよくある話だ。魔法使いになるためには魔力が必要でこれは生まれつきの才能である。そのため都合よく魔力を持つ子供が生まれなかった村は外から魔法使いを雇う。一時的なモンスター退治をしたい時はギルドに依頼し、冒険者に処理してもらう。よくある田舎な村の事情だ。


「何でまた魔法使いを毛嫌いするようになったんだ?」

「それは魔法使いの裏切りだそうです。」

「裏切り?」

「はい。それはある時村に一人の旅芸人がやって来ました。その旅芸人は町の兵士とトラブルになり、人目のつかない抜け道を教えてほしいと頼んできました。魔法使いはお人好しだったようで抜け道を案内しました。全然危険だとは思わなかったようです。」

「なるほどその旅芸人が魔王軍の先兵だったんだな。」

「そうです。私の生まれた村は近くの城を攻めるのに大変都合が良かったんです。」


そうか女の子の生まれた村は魔王軍との戦争に巻き込まれてしまったのか。不幸以外の何者でもない。そういう悲劇がこの女の子の人生の背景にあったのだろう。


「抜け道を知った魔王軍は村を襲撃しました。それは地獄絵図だったようです。村には火が放たれ、逃げ惑う村人は連れて行かれその後どうなったかはわからないそうです。」


俺は息を飲んだ。女の子は子供とは思えない重い口調で一言一言丁寧に話していた。そこに幼さを垣間見ることは出来ない。たまに魔王軍に攻められた村や町の話を聞く。それと同じ様に悲惨な経過を歩んでいたようだ。ただ、外から来た魔法使いが原因という違いがあるが。


「生き残った人もいたんだろ?」

「はい。山に逃げ込み魔王軍をやり過ごした人たちがいました。その生き残りの人たちで今の村が形成されたそうです。」

「魔法使いはその後どうなったんだ?」

「弁明したそうですが生き残った村人に責められ自殺しました。」

「そうか。」


重く責任を感じたのだろう。つらかったのだろう。折角、求められて常駐するようになった村で溶け込めていたのに自分の軽率な行動で村を潰滅状態に追い込んでしまったことに耐えられなかったのだろう。その話をしてる女の子はどこか寂しげであった。何か思うところがあるのだろうか。おそらく、冒険者として外で生活することになったことと関係があるのだろう。


「それ以来、村は魔法使いを住まわせるどころか入れることも拒むようになりました。」

「そんな事態になった村に魔力を持った君が生まれたのか。」

「そうです。最初に気がついたのは母でした。まだ、はいはいしている時に小さな火を出しいたそうです。娘である私が魔力を持って魔法を使っているのを見たとき母はどんなに怯えたことでしょうか。」


確かにそれは恐怖だろう。自分はおろか大切な娘が迫害される怖れがある。自分にも子供がいてそのような環境にあったらパニックになるだろう。


「それで母親はどうしたんだ?」

「私が魔力を持っているのが分かってから母は私を家に閉じ込められました。外に出ることは一切禁止にしたのです。」

「他の村人に不審に思われるのではないか?」

「母は私のことを訪ねられると病気で外に出せないと言って誤魔化していたそうです。それから私は家からほとんど出ることがない幼少期を送っていました。」


なんて可哀相な人なのだ。理由はあるにしてもただ才能を持って生まれただけなのに当人にはどうにも出来ないことなのにこうして束縛される。自分が住んでいる町にはたまたまだろうが、そういう話は聞かない。俺なら恨むだろう。しかし、目の前にいる女の子からは憎しみを感じなかった。 屈託がないのだ。むしろ、何かこれからの人生を楽しみにし、気持ちは前を向いているようであった。


「でも、今はこうして船に乗り冒険者になろうとしている。どういう経緯だ?」

「私が5才になった時です。村長が病気で家から出れなくて誕生日を親以外から祝福されるのは可哀想だと思ったそうです。だから祝ってやろうと家に来ました。その時はたまたま母も父もおらず私一人で留守番していました。村長は玄関で大声で呼びましたが、私は応対することはありませんでした。母に決して誰が来ても応対はしてはならないと戒められていたのです。誰も出てこないので村長は勝手に家に上がりました。私の村は村人全員家族というような感覚があって割りと勝手に人の家に上がったりすることもあります。その時も村長は深く考えずに我が家へ入って来ました。そして、私の声をする方へと行って見てしまったのです。私が指から火を出していたのを。その時のことは私は覚えています。にこにこしながら私の部屋に入ってきた村長は驚愕していました。そして、みるみる顔を真っ赤にして走って家から飛び出して行きました。両親はその日の夜町の寄合いに呼ばれて尋問されたそうです。かなり責められたようです。」

「きっと誹謗中傷されたんだろうな。」


女の子とその両親は悪くない。たまたまその星のもとに生まれたに過ぎないのだ。しかし、事情が事情だけに村人を責めることも出来ない。魔王軍に目をつけられたのが、不幸の始まりだったのだ。


「両親が尋問された次の日、村の男が数人やって来ました。男たちが来た時、私は両親が帰ってきたのだと一人で夜を過ごした寂しさから玄関まで走って行きました。行くと男の一人に両手首を縛られ家から連れ出されました。久しぶりの外でした。私は訳が分からず泣き叫びましたが、様子を見に来た他の村人は私を怪物を見るような目で遠巻きに見ていました。私は殺されるのではないかと恐怖で一杯でした。」


ひどい話だ。この女の子はたまたま魔力があっただけで落ち度はないのにまるで罪人扱いだ。村人たちに同情する面もあるが、やり過ぎだ。


「よく、殺されなかったな。」


今、こうして冒険者になるための旅に出ているということは何とか切り抜けてきたのだろう。

女の子はにこりとして話を続けた。これからそのことも話すということだろう。


「私の処遇については村の寄合いで議論したそうです。村を出る時に教えてもらったのですが、処刑や幽閉など過激な強硬論もあったそうです。」


予想していたがそんな村が未だにあるなんて。憤りと恐怖が混ぜ合わせた感情が俺の中で起きていた。


「取り合えず私は処遇決まるまで小屋に閉じ込められました。一人でいる時は母のことを考えていました。ひどい目にあってないか心配していました。そういうことを考えていると今の恐怖を忘れることが出来るのです。」

「つらいな。で、その後はどうなったんだ?」

「数日後、食事を持って来てくれる人とは違う男が来ました。私の背中に緊張が走りました。その男は話がまとまったからすぐに村から出ていく準備をしろと言いました。私は最初よく理解出来ませんでした。再度、男に言われてやっと理解しました。ああもう故郷には帰って来られないと。」


その話を聞くと俺は同情を禁じ得なかった。自分でそうなったのではなく、そうならなくてはならないという運命にこの女の子はなっている。なんて可哀想なのだろうか。神はなんて酷な人生をこの女の子に与えたのだろうか。


「村を出なくてはならなくてはならなかったのはわかったが、自由とはいえどういう経緯で冒険者の道へと進むことにしたんだ?」

「村を出る準備をして両親に別れを告げ、両親は村に残れることになったのですが、村を出ようとした時に近所のおじさんに勧められたんです。冒険者ならどこにでも行けるし食いっぱぐれることもない。職人とか奴隷になるよりよっぽどいい。それにお前は今まで村からも家からもほとんど出たことがない。なら一つ自由に世界を旅してみたらどうかと言われたんです。その話を聞いた時、私は心の底からわくわくしてきました。私はずっと外を知りませんでした。そんな私でも世界を見て回ることのできるなんて何て素敵なことだろうと思いました。頼りもなく生きるにしても冒険者はちょうど良かったんです。」


酷な運命でも本人が良しとすれば幸福か。


「それで冒険者になるためにこの船にか。」

「はい!それでこの杖とか冒険に必要な道具を途中の町で買い集めましてね。」

「おもしろい話が聞けた。」

「食事前の雑談にはちょうど良かったですか?」

「ああ、お腹一杯だよ。」

「まだ、食べ物は来てないですよ。」


女の子は口を手で覆い笑った。その顔にはまだ幼いとはいえ苦難の道を歩んできた人間の余裕が滲み出ていた。

話していると食事が運ばれてきたので色々と談笑しながら楽しい一時だった。談笑の中で教えてもらったが魔法は書物を参考にして覚えたそうだ。食事が終わると船は港に到着した。俺と女の子も荷物をまとめて下船した。


「これからどこに行くんだい?」

「そうですねぇ、東の駆け出し冒険者が多くいる町に行ってそこで冒険者登録しようと思っています。」

「あの町なら冒険者が多いから冒険者稼業がやりやすいかもな。」

「はい!」


女の子は朗らかな笑顔で言った。俺と女の子は港で別れた。

一人家に向かって俺は歩いていた。世の中には俺とまったく違う人生があることに初めて実感した。それは当然のことなのだが、中々実感することは少ない。女の子からはその実感を教えてもらった。そう人間はそれぞれ世渡りという航海をしてそれぞれの目的地に向かって突き進むのだろう。



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