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三十一文字物語  作者: 京屋 月々
第二章 紅花栄
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第十六話「靖国の春」

挿絵(By みてみん)



苑紅そのべにさん!」

蒼空そら! どこ行ってたんだよ! 剣術部の歌合うたあわせ、あっという間に終わっちゃったぞ! って、お前それ何だ?」


 蒼空の頭の上にいるガマガエルがゲコッと鳴いた。

 足元には二匹の子犬がじゃれついたまま、第三短歌部の陣営まで付いてきてしまった。


「そいつら、哦獣術部がじゅうじゅつぶの動物だろ?」


 水縹みはなだは、肩に小さなフクロウを乗せたまま、虎の哦獣がじゅうに乗って行ってしまったから、試合のメンバーは揃っているってことかな。


「何か付いてきたっす」

「まぁ、いいけどさ。で、今の歌合見てたのかよ?」

「すみません……。見てなかったっす……」


 琴葉ことはが興奮気味に蒼空と苑紅の間に割りこんだ。


「すごかったんだよ! 柔道部の人、私たちと戦った時と同じように限定特化のウタを使ったのに……」

「小野琴葉!」


 突如、野太い声が背後から聞こえた。声の主の方を見ると、空手道着に身を包んだ屈強な男たちが腕組みをして立っていた。


「わっ……。何ですか……?」

「京西高校附属中学、極真空手部出身の小野琴葉か?」

「はい、そうですけど……」


 中央に立つ筋肉隆々の男が、懐を探り始めた。


「ファンです。サインください!」

「え〜?」


 男が色紙を両手に持ち、頭を下げながら差し出した。周りにいる空手着の男たちも、口々に「お願いします!」と言って頭を下げた。


「あー。はい。わかりました」

「ありがとうございます! ここに桜花おうかくんへ、って書いてください」


 桜花と名乗った筋肉質な男が色紙の隅を指差しながら言う。

 琴葉のことは愛蘭あいらんも知ってたし、格闘技ファンの間ではやっぱり有名人なんだね〜。サインをねだられるなんて、琴葉やるなぁ。

 琴葉は色紙に丁寧にサインを記した。


「はい! どうぞ!」

「おぉ……! ありがとう!」


 どれどれ、どんなことを書いたのかな?


 (桜花くんへ! 人間はゴリラより強い! 小野琴葉)


 わぁ……。何か琴葉らしい言葉ではあるなぁ。

 

「素晴らしい言葉だ……」


 空手着の男たちは、感動の声を漏らしながら琴葉の色紙を凝視していた。


「琴葉さんは、ウタなしでもゴリラに勝てるんですか!?」

「うん。ゴリラが空手の練習してるの見たことないし、それなら勝てるよ」


 琴葉の声からは一切の迷いも感じられない。

 実際、体重差50kgはありそうな柔道部員を空中に殴り飛ばしてたし、ユポポの大猿の歌儡かぐつも、ぶん殴って転倒させてたし、たしかに普通のゴリラくらいが相手なら勝てる気がする……。

 琴葉の言葉は彼らの心に刺さったようで、肩を震わせるほど感動していた。


「第三試合! 哦獣術部! 対! 空手部! 昇殿!」


 次の試合のメンバーを呼ぶ声が聞こえると、空手着の男たちの顔つきが変わった。


「次は俺たちの試合です。良かったら応援してください!」

「はい! わかりました!」


 空手部の男たちは天満宮に向かっていった。

 太鼓橋の前には虎の哦獣に乗った水縹がいた。やはりその肩には眠った小さなフクロウが乗っている。

 水縹は蒼空に気付くと、笑顔で親指を立てて見せた。蒼空も親指を立てて応えると、頭の上のガマガエルがゲコッと鳴いた。


「なぁ琴葉、今の空手部の人たちって強いのか?」

「そうだね。すごく鍛えてると思う。私が中学の時に、高校の空手部の大会情報も入ってきてたけど、雲雀ひばりの名前もちらほら見かけたし」


「それだけじゃない」と苑紅が話に割りこむ。


「普通の武道の大会は、基本的にウタなしだけど、今回はバリバリにウタありだ。たぶん、琴葉の参考になる戦いをしてくれるんじゃないかな」

「はい! 楽しみです!」


 そして、会場中に大太鼓の音が鳴り響いた。


開始はじめッ!」


 入り口ので睨み合っていた両部が粒子となって消えた。


「さて、皆どこ行ったかな?」


 色んな場所に設置されたライブカメラを皆がきょろきょろと見始める。


「あ。空手部の人たち、手前の角のエリアにいるっすね」


 空手部の三人が、全身に力を入れて詠歌えいかする。


 『十七の風はつらなり果てを征く レイテの海に青空の見ゆ』

 

 『子午線を越えたる花が靖国の春の梢で誇らしく咲く』


 空手部メンバー、それぞれの眼前に詠力陣えいりょくじんが現れ、体に吸収されていく。


「一人は単独の詠歌で、二人は合わせ歌だね」

「二人が接近戦を想定しての力と速度の向上、単独でんだのは遠隔攻撃のようだな」


 苑紅と福丸ふくまる詠力えいりょくを読み、状況を解説してくれる。

 

「合わせ歌のほうは、相乗効果も乗ってるっすね」


 空手部のウタ、琴葉の参考になればいいな。

 もし琴葉がガンガン詠えるようになったら、ゴリラに勝つどころじゃない強さになりそう。

 それこそ、空手部がバフのウタを詠んだってことは、ゴリラの数倍でかいあの虎の哦獣を力でやっつけようってことなんだね。


「哦獣術部は最奥の部屋か。さて、何を詠うかな」


 水縹が掌の上に、眠ったフクロウを乗せて詠歌した。


 『おろろんとはこ入りの闇、なまめきて あふれ紡いでこぼれて満ちて』


 水縹の掌の上に詠力陣が広がると、フクロウはパチっと目を開いた。

 フクロウの体はねじれながらゆっくりと伸びていき、バッと大きな翼を広げた。

 小さかったフクロウは巨大化し、その翼は端から端まで三メートルほどあった。


「でか! 巨大化した!」

「あれが本来の哦獣の姿だね。普段はウタの力で小さくしてるんだ」


 フクロウは、ホーと一度だけ鳴くと、体から黒いモヤを出しはじめる。モヤはあっという間に広がり、最奥の部屋は明かりのない夜のような暗さになってしまった。

 フクロウは音もなく飛び去ると闇に紛れる。

 虎の哦獣も静かに飛びあがると、闇に溶けこんだ。

 フクロウも虎もあんなに巨大なのに、どこに隠れたのか、全然見えなくなってしまった。


「かなりレベルの高い隠密っすね」

「フクロウ哦獣の力のようだけど、封印解除のウタの時にさらに効果を倍増させてるね」


 闇の中からまた、ホーと鳴き声が聞こえた。


「急ぐぞ!」


 空手部の三人は、渡り廊下から薄く漏れるモヤに気付き、走り寄る。

 そして、最奥の部屋の扉の前で立ち止まった。

 開かれたその扉の向こう側はもうすっかり真っ暗で、見上げる位置にある神棚や壁がうっすらと見えるだけだ。


「うかつに飛びこめないな」


 その時、またフクロウのホーという鳴き声が聞こえた。


波詠拳はえいけん!」


 空手部の一人が、声のした方向に向かって両手を突き出すと、勢いよくエネルギー弾が飛んでいった。

 かめ○め波だ! 福丸が言ってた「遠隔攻撃のウタ」ってこれだな!


 エネルギー弾は天井にぶつかり弾けて消えたが、その火花で中が一瞬明るく見えた。


 フクロウは、エネルギー弾が弾けたすぐ近くの天井付近、飛び出た柱に止まっていた。さらに部屋の中央には虎の哦獣が行儀よく座っていた。

 空手部員はその一瞬の情報も逃さない。


「連・波詠拳!」


 かめ○め波を撃った空手部メンバーがさらに追い打ちをかけた。

 前衛の二人は身構えたまま室内を警戒している。

 連続したエネルギー弾がフクロウのいた場所に直撃して弾けた。

 しかし、再度、火花で明るくなった部屋の中には、もう誰もいなかった。


「消えた!?」


 ホー、と今度は空手部の背後で鳴き声が聞こえた。

 三人が身構えて振り返ると、モヤは最奥の部屋の外にも広がっており、渡り廊下も真夜中のように暗くなっていた。

 渡り廊下からは外が丸見えになっていたが、その外の景色すらも夜のようだ。

 突如、ズバァン! と肉を切り裂くような轟音ごうおんが響いた。

 その直後、前衛の空手部の一人が倒れた。背中には三本の青い鎖が太く走っている。


 桜花とかめ○め波の部員が攻撃の方向に向き直り、身構える。が、そこにあるのは暗闇だけだ。

 二人が周囲を見回すと、中庭に薄い月光を浴びた虎の哦獣と騎乗する人間のシルエットが見えた。


「くそ……!」


「すげー攻防戦っすね!」と蒼空がハイテンションで叫んだ。

 観客席からも大きな歓声が巻き起こっている。


「空手部の人が出した波詠拳って技、最初の詠歌でエネルギーチャージして、技名を叫ぶことをトリガーにしてるってことですよね?」

「その通り! 琴葉、なかなかわかってきてるじゃん」

「真面目に授業受けてますから!」


「しかし」と福丸が補足する。


「いくら歌心に忠実であっても、一回の詠歌では、さっきの二回の詠力弾えいりょくだんで弾切れだろう。戎具じゅうぐや装具での上乗せもないようだから、同じ方法で追撃するなら、再詠歌が必要だ」

「なるほど……。無駄な連発はせず戦略的に使用し、再詠歌の時は隙が生まれないように注意ってことですね」


 空手部の戦い方を琴葉なりにちゃんと参考にしているようだ。

 

「ウタの月光を浴び、神々しい姿を見せております! 哦獣術部、部長の大原水縹! 野口さん! 哦獣術部がかなり優勢ですね!」

「はい。あのフクロウの哦獣は、「濡羽鬼車ぬればおにのくるま」と呼ばれる種類で、闇の詠力を常に纏った哦獣です。大原さんの哦獣化のウタで、適切な効果発生を行っている状態ですね」

「なるほど! しかし、一首の詠歌のみでかなり強い効果を出していますね!」

「哦獣本来の力を使っての相乗効果ですからね。効果は強いですよ。ただ、哦獣の詠力に多様性はないですから、戦術が限られることが難点ですね」


 はぁ、なるほど。馬時うまときと野口の実況解説は時として勉強になるな。

 

 先ほどエネルギー弾を撃った空手部員が再び、体に力を込め詠歌する。


 『十七の風はつらなり果てを……』


 瞬間、詠歌していた空手部員の背後、渡り廊下の天井付近の壁に、張り付くように虎の哦獣が現れた。


「……!」


 ズバァン! と大きな爪が肉を切り裂き、波詠拳の空手部員が戦闘不能となった。


「はやっ! さっきまで中庭にいたのに!」

「たぶん、あの虎の詠力だ! 気配を殺しての高速移動。フクロウの詠力と相性もいい!」


 最後の一人となった桜花は、すぐさま虎の哦獣に徒手による連続攻撃を放ち、数発がヒットした。

 しかし致命傷は与えられなかったのか、虎はふわっと飛び上がると、また闇に紛れてしまう。


 間髪を入れず、桜花が詠歌する。


 『無の音を残らず抱いて九重ここのえの桜が散りし春はたぎつる』


「決まった! 今度は中断されることなく詠えたっすね!」

「虎が怯んでいたからな。あの歌は……、琴葉、どんなウタだと思う?」


 苑紅の唐突な質問に琴葉は驚くが、すぐにライブカメラに目をやって答えた。


「短歌だけじゃ全然わからないですけど、もし私なら、相手の気配を極限まで探知できるようにすると思います」

「いいね。ほとんど当たり」

「やった!」

「ただ、もう一個大事な要素があるみたいだよ」


 桜花の眼前に生じた詠力陣が、体に吸収される。これは間違いなくバフ系。

 吸収された詠力陣は、詠力の粒子となり薄く体を纏っている。

 桜花は構えを取ると、両目を閉じた。やっぱり琴葉の言った通り、極小の気配を探知するつもりなんだ。


「桜花さん、目、閉じちゃったっすね」

「あのフクロウの詠力の正体は完全には分からないからな。もし闇による隠蔽に合わせて、幻覚系も生じているなら、目なんて閉じちゃった方がいいかもって判断だね」


 反物たんもののライブカメラに映る天満宮は、どこもかしこもすっかり夜になっていた。

 中庭には薄く雲がかかった月まで出ている。


 しかし、ライブカメラを通さず観客席から見る天満宮は昼にしか見えない。周囲に黒いモヤが薄く見えるものの、詠力の効果範囲内とその外とでは、こんなにも見える世界が違うのか。


 ライブカメラを見る。厚い雲が風に流され、月を少しずつ隠していった。闇が深まる。

 その時、桜花が中空にとんでもない速度の連撃を放った。

 

「速っ!」


 硬い肉を高速で何度も叩く鈍い音が響く。その音は、連撃の全弾命中を物語っていた。

 桜花の視線の先、黒いモヤの狭間から、態勢を崩している虎が見えた。


「うぉぉぉ!」


 桜花がとどめを刺そうと踏みこんだ時、彼の背後に獣の鋭い鳴き声とともに閃光が走った。

 フクロウは鋭い鉤爪かぎづめで桜花の背中をえぐり、地面に着地するとまた飛び去る。


 低い呻き声を上げて、桜花は片膝をつく。再び立ち上がろうとするが、桜花の太ももには青く太い鎖が幾重にも巻きついている。

 桜花が顔を上げる。光が見えた。白く大きな満月を背負い、虎の哦獣がその獰猛どうもうな目で、桜花を見下ろしている。

 

「くそ……」


 虎の哦獣もまた、無数の青い鎖を体に走らせていた。だが、桜花のダメージはそれよりも大きく、全身に無数の鎖が絡みついている。

 虎の哦獣は水縹に制止されているのか、攻撃は加えない。

 桜花は力なく俯いた。


「参った……」


「勝負ありっ! 勝者、哦獣術部!」


 白逢しろあいが片手を上げたと同時に、観客席から大歓声が鳴り響く。

 いや〜〜、すごかった。大迫力。息止まってたよ。私、息してんのかどうかわかんないけど。

 まさか、健康美部VSヤンキー部みたいな試合ばっかなんじゃないかと思ってたからさ〜。すげー興奮した〜。


「いい試合だったじゃん」

「ウタと空手だと、あんな組み合わせの戦い方になるんですね!」

「参考になったなら何よりだよ」

「でも、だめ」


 夜鹿よるしかが口を挟んだ。今日初めて声を聞くんじゃないだろうか。


「空手部のそれぞれの一首目は良い。でも、回数制限のある遠隔攻撃を、あのタイミングで撃つべきじゃない」

「たしかにね。フクロウの詠力は闇属性、隠蔽と幻覚が主な構成だった。なら、遠隔を撃つ前に、位置を探知するウタを使うのがセオリーだわな」

「そうだな。おそらく、フクロウの詠力にはジャミング効果もあるはず。だが、あの場面なら条件を整えるため、セオリーのウタは有りだ」


 苑紅と夜鹿、福丸が真面目な顔で感想戦を行っているが、琴葉は何やら下唇をかみながら別のことを考えてるようだ。


「苑紅さん!」

「わっ、どうしたの。琴葉?」

「桜花くんの最後のウタ、苑紅さんが言ってた大事な要素について聞きたいです!」

「うん、何だと思う?」


 苑紅は最初に答えを言わない。

 苑紅のキャラにも合ってるけど、答えを最初に考えさせるのはとてもいい教育だと思う。

 いい先輩だし、いい教師になれそう。


「あんな動きは、どんな練習してもできないです。それに、これまでに見た、どんなウタで強化した動きよりも、さらに速く力強さを感じました」

「さすが。見るところを見てるね。あのウタは、最初に琴葉が言った通り、気配探知の極限アップと、それに合わせて、探知をトリガーとした攻撃の超高速自動再生、って感じのウタだね」

「攻撃の超高速再生! そんなことできるんですね!」

「でも、あんなこと、普通じゃできないし、リスクも大きい。何度も何度も、飽きるほど練習してきた技だからできたのが大きい。それと……」

「反動ダメージですよね」

「うお……。琴葉、何かマジで見違えてるな」


 琴葉は、私が見てる限り、クラスの誰よりも集中して授業を聞いてる。そりゃ理解度は、今は下から数えた方が早いっぽいけど……。

 編入組なんて言われてたし、誰よりもウタについて遅れを取ってるのは本人もわかってるけど、もとからある勤勉さも手伝って、とにかく成長が速い。

 琴葉は勤勉、努力の人! って感じで、蒼空は……。


角田かくた先生! その短歌の返歌、俺やりたいっす!」

「えっ! 福岡先生! そいつバカっすね! 歴史上の人物なのに!」


 という感じで、学校も授業も楽しくてしょうがないといった具合だ。

 蒼空と琴葉、どちらの姿勢も前向きで私は好きだ。


「苑紅さんと福丸さんが、山登りで超人的な移動してましたけど、あの動きでも、あれだけの反動があったんですから、一瞬とはいえ、あんな動きしたら反動ダメージはすごいはずです」

「その通り。あの空手部の最後の奴は、次の試合には出れないって覚悟して、あのウタを詠んだんだ。背中と足以外の封印の鎖は、あいつ自身のウタの反動さ」


 琴葉はそれを聞くと一点見つめになって、考えごとを始めた。

 若者が成長する瞬間は本当に美しいものだな。

 その時、蒼空の頭上のガマガエルがゲコーッ! と大きな声を出し、水縹の歌合を真剣に見ていたのか、静かだった二匹の子犬もキャンキャンと嬉しそうに吠えだした。


「水縹さん! お疲れ様っす! 歌合、すげかったっすよ!」

「ありがとうー。蒼空君」


 虎の哦獣に乗った水縹の肩には、疲れたのか鼻提灯を出しながら眠っている小さなフクロウがいた。きっと虎の哦獣もお疲れだろうね。 


「水縹さん、お疲れ様でした」

「ありがとう。苑紅。第三短歌部、順調のようだね」


 苑紅は水縹とも友だちなのか。ほんっと顔広いな。


「この子の療治りょうじ酔い、ほとんどないみたいですね」


 苑紅は虎の首を撫でながら言う。


「そうだね。でも、ダメージ値は規定を超えてるから次の試合には出れないよ」

「よく頑張ってくれてましたもんね」

「だね」

「次はあたしらの番です」

「うん、皆、頑張って」


 水縹がそう言うと、蒼空の頭に乗っていたガマガエルがぴょーんと飛び、水縹の頭に乗った。

 水縹はニコッと笑うと、虎の哦獣を反転させ、自分の陣営に帰っていった。


「苑紅さん、一回戦、どの三人で出るんすか?」

「あたしと、蒼空、琴葉で行くよ」


「押忍!」と、蒼空と琴葉が拳を掌で受けて立ち上がった。気合十分だな!


 苑紅がドテラをバサッと担いで立ち上がった。


「第四試合! 絡繰装具部からくりそうぐぶ! 対! 第三短歌部!」


 行くよ、と三人は太鼓橋に向かう。


「三人とも頑張るしー!」


 ユポポの声援に、三人が振り返り親指を立てて見せた。


「蒼空く〜ん! 頑張ってね〜!」


 聞き覚えのある通った声が響いた。

 観客席で天月あまつきが小さく蒼空に手を振っている。隣にはいつものように、仏頂面の清治きよはるが腕組みをして座っている。


 その上段にいる絢爛装束部けんらんしょうぞくぶのメンバーは、複雑な表情をしていた。

 そうだよね。相手は絡繰装具部。絢爛装束部は両方とも仲間だし、どちらか一方を応援するわけにもいかないか。


 苑紅たちが天月の声援に手を振って応え、三人が太鼓橋に向かっていく。

 わぁ……。ついに始まるのか。緊張してきた。

 私は、観客席でハラハラ見る身分のはずなんだけど、蒼空から遠く離れて行動できないため、太鼓橋に向かい体が引きずられていく。

 仕方ない。超VIP席で観戦する気持ちでいこう。


 太鼓橋の向こう側、拝殿の入り口の前に見覚えのある小さな姿が見えた。

 天羽あもうが腕組みをして、こちらを睨みつけている。

 その背後には、布で全体を覆っている大荷物があり、両サイドで絡繰装具部員が何らかの準備をしていた。


 苑紅も腕組みをして天羽を睨みつけた。

 昨日の友は今日の敵……。

 甲賀こうがの策略でこんなことになるなんて……。

 二人の性格的に、忖度そんたくで勝利を譲るなんて、絶対にないよね。

 もうやるしかない。睨みあう両陣営からは互いに、揺るぎない自信と気迫が感じられた。




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